菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(205)

掲載日時 2018年06月02日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年6月7日号

◎快楽の1冊
『検証 検察庁の近現代史』 倉山満 光文社新書 920円(本体価格)

 電車内で女性の体に触れたと訴えられて、痴漢の容疑で連行された場合、シロ判定になる可能性はほぼゼロに近いという。ちなみに10年ほど前だったか、埼京線で痴漢で捕まった犯人がたまたま埼玉地検所属の現役検事だったものだから、思わず取調べの段階で「私はチカンじゃなくてチケンです」と果たして言ったものだかどうだか。
 漫談はさておきその検察こそ本来、事件を起訴に持ち込んだ暁には限りなく100%に近いグレー、ならぬ有罪判決を勝ち取る泣く子も黙る官庁のはず。昭和の戦前戦後を通じ数々の疑獄事件にメスを入れ、あまたの政権の死命すら制してきた一方、近年では厚労省の女性官僚を不当逮捕した失態や、森友学園をめぐる一連の財務省の文書改竄問題で朝日新聞に情報をリークし、結果的に倒閣運動の一翼を担うかのような勢力の存在を疑問視する声も高いのは当然だろう。
 本書は日本に近代的司法・検察制度が確立された明治初頭まで遡り、その歴史を洗い直すものだが滅法面白い。何しろ初代司法卿としてトップに立った佐賀藩の江藤新平自身が、新政府に反乱を起こした罪で処刑の上に梟首されるというドラマチックぶり。
 また日露戦争後に続発する汚職の摘発はするものの、議員辞職や引退をすれば不起訴ないし起訴猶予に見逃す形で、政治の世界に対して組織的な影響力を増してゆくさまなど実に興味深い。単なる「ファッショの親玉」「狂信右翼」扱いされがちな検察出身のA級戦犯、平沼騏一郎の人物像も複雑怪奇で陰影に富む。
 闇将軍と呼ばれて以降の田中角栄に極めて批判的な著者だが、それでもロッキード疑惑自体がいかに無理筋な構成のもとに事件化されたかを描く筆致もフェアで説得力十分だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 江戸時代の春画は雑誌等で紹介されることもあるので、ご覧になった諸兄も多いだろう。だが、よくよく眺めると現代より突飛な性行為が描写されていることも少なくない。例えば、体位一つとっても、こんな奇抜なスタイルは平成時代のAVでも、まず見ることはなかったり…。
 そうした春画の世界を、ユーモアたっぷりに紹介しているのが『江戸春画考』(文春文庫/700円+税)。葛飾北斎や喜多川歌麿ら有名どころの筆による性描写から、庶民の中にいた変態や覗きマニア、浮気経験者、アダルトグッズの使用・獣姦といったアブノーマル性癖満載の春画まで、詳細に解説しているコラム集だ。
 また江戸には“遊女”がいた。彼女たちと江戸町民との関係もまた面白い。春画の中には遊女の隠れた日常を綴ったものもあり、線香で陰毛を焼き切って“下”の手入れをする姿などは、淫靡かつ赤裸々でソソられる。
 さらに密通、夜這い、妾を持つことなども横行していた時代だけに、アソコ、つまり女性器への関心も高い。というか、むしろ現代より昔の人たちのほうが興味津々だったようで、具合のいい“名器”の描写などはなかなか秀逸だ。
 著者は小説家の永井義男氏。江戸時代の性や風俗に関しての造詣も深く、『江戸のフーゾク万華鏡』(日本文芸社)などの著作もある。
 セックスが豊かで解放的だった大都市・江戸の秘められた情景を大らかに執筆していて、楽しく読み進めることができる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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