菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(176)

掲載日時 2017年10月28日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年11月2日号

本好きリビドー(176)

◎快楽の1冊
『浅草風土記』 久保田万太郎 中公文庫 1000円(本体価格)

 絶滅危惧語の一つに「団菊爺い(だんぎくじじい)」がある。かつて明治時代に“劇聖”とまで称えられた名優、九代目市川團十郎とそのライバル五代目尾上菊五郎とを並べ奉って、両雄の生の舞台に間に合えた世代の古老が歌舞伎界にどんなスターが出てきても「あの2人に比べたらまだまだとても…」。この調子で絶対に認めようとしない、というやつだ。
 落語ファンでいうところの初心者に向かって「エッ、談志も志ん朝も知らないの?」となぜか嬉しげに言うタイプも、心理的にはご同様で正直厄介だが、人によっては苦微笑ましいと言えば言えなくもない。
 しかし、東京育ちの筆者にとって困惑するしかないのが都市の話でこれをやる御仁。例えば、某作家氏の曰く、“日本橋に高速道路が架かってしまった昭和39年のオリンピック以降の東京は東京でない…”。そんなこと言われたってそれ以前を知るよすがもない人間は、一体何をどうすればよいというのか。その点、本書も若干の敷居の高さを感じるのは否めない。なにしろ著者は浅草で生まれ育った生粋の江戸っ子、“湯豆腐やいのちのはてのうすあかり”など数々の名句で知られ、またかの劇団『文学座』の創設者としても名を残す、あのクボマンである。
 どっぷりと懐旧の念に音立てて浸りつつ、実際に筆先まで濡れそぼって情がしたたりまくる書きっぷりの案内記だが、率直言って取りつく島がない箇所もところどころ。そもそも使用される語彙からして“ちょろっかな”だの“さんすいな感じ”だの“あてぎなく”だの“いさくさのない”だのと、手元の国語辞典を見ても皆目出てこぬ言葉ばかり。没後わずか50余年の作家でさえ注がなければ分からぬ現実を噛みしめつつご一読を。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 高齢童貞&処女の増加とそれに伴う晩婚化、若者がセックスに興味を示さない一方で、既婚女性が家庭の外に“彼氏”を作る不倫は花盛り…と、一体、日本人の「性」はどこへ向かおうとしているのか?
 そうした問題に専門家2人が取り組んだ1冊が『誰も教えてくれない大人の性の作法(メソッド)』(光文社新書/760円+税)である。一言でいえば大人向けの現代風性教育本だ。[男子編]では(1)未婚×非正規雇用、(2)既婚×正規雇用など、既婚か未婚か、非正規か正規かの4つに男性を分け、それぞれのタイプに別々の性教育を紹介している。なぜかというと(1)はそもそも恋愛やセックスの対象となる女性に不自由し、(2)は暮らしは安定しているが性生活には物足りなさを感じて不倫に走りやすいからだ。
 つまり、これまでは紋切り型に「こうすれば性の問題は解決する」というマニュアルが氾濫していたが、男性のタイプによって必要な性教育が違っているところが興味深い。
 一方の[女性編]は、出産・更年期と年齢を重ねながらどう性と向き合っていくか、女性ならではの悩みとその解決策が中心である。
 専門家の2人は坂爪真吾氏と藤見里紗さん。坂爪氏は『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書)や『はじめての不倫学』(光文社新書)等の著書も多い。藤見さんは性教育の講師。数年前まで高校の保健体育教師だった。両名とも現代の「性」の現状を知っているだけに、日本が抱えるセックスの暗部が浮かび上がってくる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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