園都 2018年6月28日号

プロレスラー世界遺産 伝説のチャンピオンから未知なる強豪まで── 「ダイナマイト・キッド」最大限にプロ意識を発揮した“爆弾小僧”

掲載日時 2018年01月28日 12時00分 [スポーツ] / 掲載号 2018年2月1日号

 「完璧なレスラーとは誰なのか?」と問われたときに、ダイナマイト・キッドの姿を思い浮かべるファンは多いのではないか。
 スピーディーかつパワフルな攻めは、ただ直線的なだけでなく、ベースにはランカシャースタイルのレスリング技術がしっかりと備わっている。ファンにはおなじみ、英国で“蛇の穴”と称されたビリー・ライレー・ジム仕込みのものだ。
 一方で、受けに回っても、相手の技の威力を最大限に見せつけるかのごとく、激しい受け身を披露する。

 後述する薬害の問題は決して小さなものではないが、ステロイド使用の以前から、その体は古舘伊知郎に“肉体の表面張力の限界”と実況されるほど鍛え上げられていた。
 エンターテインメント・スポーツであるプロレスの特性上からして、観客へのアピールは欠かせないものである。
 そのため、多くの選手は過剰に己のキャラクターをつくったり、マイクパフォーマンスなどに力を入れがちだが、そんな中にあってキッドは、リング上の試合内容だけで観客からの支持を受け、トップ選手へと成り上がった。

 クールで感情をあらわにしないスタイルは、アメリカ人が抱く“プライドの高いイギリス人”のイメージに沿ったヒールギミックの部分もあったろうが、そうやって観客を突き放していながらも、どんどんキッドの人気は上がって行った。
 それは、表面的なファンサービスではなく、リング上で最大限にプロ意識を発揮した結果であった。
 「長州力やロード・ウォリアーズのような、いわゆる“ハイスパート系”の選手と見られることもあるキッドですが、大きく異なるのは、相手の見せ場をつくることにも秀でている点でしょう。長州らが自分たちの攻撃場面を見せることに重点を置いたスタイルであるのに対し、言うなればキッドは、昔ながらのプロレスをスピーディーかつパワフルに仕立て直したという感じでしょうか」(プロレス専門誌記者)

 同じダイビング・ヘッドバットとブレーンバスターを得意技とするハリー・レイスと比べてみれば、その点はより明らかだ。
 マットに倒れた相手の頭部を目がけて、遠い側のコーナーから勢いよく飛び込むダイビング・ヘッドバット。自ら一歩踏み込んだ勢いのまま、一気に投げ捨てる剃刀式ブレーンバスター。いずれもレイスのそれとは趣を大きく異にしながらも、技自体は旧来プロレスのものを踏襲している。
 「空中戦などの派手な試合だけでなく、全日本プロレス移籍後は、マレンコ兄弟とのグラウンド戦にもしっかり対応していた。それもキッドが基本に忠実だったからだと言えます」(同)

 日本におけるキッドの名勝負として、まず挙がるのは初代タイガーマスクとの一連の抗争だろう。
 「普通のジュニアの試合とは一味違った殺気をはらんだものになったのは、タイガーの本格的な攻めをキッドがしっかりと受け止めたからこそ。つまり、タイガーの成功の半分は、キッドのおかげといっても過言ではありません」(同)

 ジュニアクラスのみならず、本拠地のカナダ・カルガリー地区では、キラー・カーンなどヘビー級選手を迎え撃って抗争を繰り広げていた。そんなキッドがステロイド剤の投与によって見るからに体を大きくしたのは、WWF(現WWE)移籍後のことだった。
 「それ以前から大型選手とも互角以上の勝負をしていたのだから、リング上だけなら無理に体を大きくする必要はなかった。それでもあえてステロイドを使用したのは、テレビ時代への対応だったのかもしれません」(同)

 WWFが全米侵攻にあって活用したのが、ケーブルテレビやPPV放送であった。ジュニアサイズのキッドはテレビ画面で比べられると、どうしてもハルク・ホーガンをはじめとした超大型ファイターに見劣りしてしまう。
 そこでプロ意識の塊であるキッドは、サイズアップを図ったのではなかったか。
 「薬害の話など知られていなかった時代。日本人でも“ステロイド剤投与”のために海外修行へ行ったような選手もいて、むしろ使うのが当たり前という風潮でした。だからキッドも、何の悪意もなく使用したのでしょう。ただ、自伝にも記していますが、さすがに“競走馬用の筋肉増強剤”を使うのは行きすぎでした」(プロレスライター)

 結果、ケガも重なり、引退後は車椅子の生活となったキッド。あれほどのレスラーがそうなってしまったことで、薬物の危険性がいっそう重く受け止められることにもなった。
 その点において、キッド当人にははなはだ礼を欠く物言いにはなるが、いち早くプロレス界にステロイド禍の警鐘を鳴らしたと言えるのかもしれない。

ダイナマイト・キッド
1985年12月5日生まれ、イギリス出身。身長173〜178㎝、体重98〜105㎏。得意技/ダイビング・ヘッドバット、剃刀式ブレーンバスター。

文・脇本深八(元スポーツ紙記者)

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