葉加瀬マイ 2018年11月29日号

宴シーズンに気を付けたい“失神”と外傷性くも膜下出血

掲載日時 2016年04月23日 10時00分 [健康] / 掲載号 2016年4月28日号

 先頃、腹話術師・いっこく堂(52)が、自宅の廊下で失神して倒れ、救急搬送されるという事件が起きた。診断結果は、くも膜下出血。幸い命に別状はなかったが、後日、いっこく堂は「迷走神経反射」によって外傷性のくも膜下出血を起こしていたことが分かっている。
 迷走神経反射とはあまり聞いたことのない病名だが、実は誰にでも起こり得ることなのだという。
 東京都立多摩総合医療センター総合内科の外来担当医に聞いた。
 「交感神経と副交感神経からなる自律神経は、どちらも複数の神経の総称で、迷走神経というのは副交感神経の一つです。ストレス時に働く交感神経と対をなし、心拍数や血圧を下げたり、消化を促したりする働きがある。通常は、どちらかが過剰にならないようにバランスを取っているのですが、それが崩れて迷走神経が過剰に興奮すると、一時的な血圧低下によって脳への血流が悪くなり、失神するのです」

 この迷走神経反射は診断名こそ難しいが、メカニズムは、低血圧の人が朝礼などで倒れる起立性低血圧と同じだ。特に上(収縮期)の血圧が100mmHgより低い中年以降の人に起こりやすいが、それだけではないという。
 「共通点として挙げられるのは、強いストレスにさらされた状態。ただし、一口にストレスと言っても状況は様々です。残業や寝不足を重ねた結果、疲労が積もり積もって朝の通勤ラッシュで座れず、立ちっ放しになることが引き金になることもある。また、トイレでふと立ち上がろうとした時や、朝ベッドから起きようとして倒れる人もいます。さらに採血後にフラッとして汗が出たり、吐き気がしたりしますが、それがひどい場合にも発症する。症状は脳血流の低下の度合いによって左右され、重症化すると失神になります」(同)

 いっこく堂は普段、酒を飲まないものの、その日は梅酒を(コップに)2〜3センチ飲んだため、少し気持ちが悪くなったという。
 「下戸の人にとって飲酒はストレスです。それでいてアルコールの作用で血管が拡張され、血圧が下がりやすい上に、飲酒による脱水も重なります。今回のケースは、飲酒によって引き起こされた可能性は十分あり得ます」(健康ジャーナリスト)

 そもそも失神とは、血圧の異常低下などにより、脳全体の血流が減ることで引き起こされる、一時的な意識障害のこと。多くは危険性の低い失神だが、中には命にかかわる病気が潜んでいることもある。
 東邦大学医療センター大森病院・循環器センターの外来担当医が説明する。
 「失神は脳への血流が6〜8秒途絶えたり、収縮期血圧が60mmHgに低下したり、脳への酸素供給量が20%低下するだけで起こります。その原因は、(1)起立性低血圧による失神、(2)心血官性失神、(3)反射性失神に大別できます」

 (1)は、パーキンソン病や糖尿病、脊推損傷、尿毒素にともなうもの、抗うつ剤、血管拡張剤などのくすりによるもの、がんなど消化管からの出血や下痢・おう吐に伴うものが含まれる。(2)は、激しい運動中に起こる大動脈弁狭窄症のほか、肺塞栓症、くも膜下出血などで発症する。
 もちろん(1)(2)のように失神の背景にあるこうした病気は危ないが、厄介なのはやはり日常動作で起きる(3)の反射性失神だ。
 (3)はさらに三つに分かれ、一つ目が感情ストレスが引き金となる血管迷走神経反射失神。二つ目に、くしゃみなどで引き起こす状況失神、三つめが頸動脈洞過敏症だ。
 「大量の飲酒後に起きる排尿失神は状況失禁に含まれます。頸動脈洞は首の付け根にある血圧と脈拍数をコントロールするセンサーで、圧迫すれば脈が遅くなる。ただし、過敏症の人は髭をそるのに首を曲げたり、ネクタイを強く締めたりしただけで失神することもあるのです」(大学病院関係者)

 予防法に関して、医学博士の内浦尚之氏は説明する。
 「引き金となった状況を調べて、それを取り除くことが一番です。飲酒後に調子を崩すことが多ければ、酒量を控えること。起床時であれば、血行をよくする弾性ストッキングを着用することなどが挙げられます」

 また失神は、倒れて頭を打つことで起こる脳挫傷、脳震盪が怖い。脳挫傷は頭蓋骨骨折や脳内出血を伴う脳組織の損傷によって、機能障害や意識障害を起こすのが特徴。脳震盪は頭を打ったことで脳が揺さぶられ、意識喪失やめまいなどを起こす。
 「場合によっては『びまん性軸索損傷』といって、脳組織だけでなく神経細胞の損傷を引き起こしている場合もあります。これにより呼吸中枢など命の維持を司る脳幹にまでダメージが及ぶと、手の施しようもない重篤な状態に陥ってしまうのです」(専門医)

 外と室内の温度差など高血圧の誘引する原因が多いことから、「くも膜下出血の発症は冬場に多い」と言われる。しかし、外傷性くも膜下出血についても、路面の凍結や濡れた床での転倒が多いため状況は同じだ。
 失神による頭部の強打はもちろんのこと、「野球のボールが頭に直撃した」、「階段を踏み外して転落した」などの泥酔中のアクシデントによるものも非常に多い。
 「もし周囲の人が頭を打ってしまった際、重要なのは、“意識の確認”です。呼びかけに答えられなかった場合、身体を揺すったりせず、安全を確保した上で静かにして救急車を待つこと。意識があった場合でも、時間が経過してから症状が発生するケースもあるので、病院での精密検査を受けさせることが大事です」(健康ライター)

 花見や歓迎会など、宴席も多くアルコールの量も増えるシーズン。失神、そして転倒による頭の損傷に気を付けよう。

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