葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第236回 食料安全保障と種子法廃止

掲載日時 2017年09月08日 14時00分 [政治] / 掲載号 2017年9月14日号

 2017年8月、東京では21日間連続で雨が降った。雨天が続いたのは東京に限らず、範囲は関東全域、さらには北日本にも及んだ。日照時間が不足した結果、キュウリやネギなど、一部の野菜の卸売価格が平年の1.5倍程度に高騰した。

 筆者は「防災安全保障」に絡め、「日本国民が分散して暮らす重要性」について語っている。日本は自然災害大国である。自然災害大国である以上、国民は可能な限り分散して暮らし、いざという時は助け合わなければならない。だからこそ、交通インフラを整備し、各地方が経済成長し、「経済力」、すなわちモノやサービスを生産する力を蓄積する必要があると力説しているわけだ。

 同じように、食料安全保障の面では、
 「日本の各地域で、食料生産が可能なこと」
 もまた、極めて重要な考え方になる。何しろ日本の食料生産が一地域に集中してしまうと、その地域が天候不順になっただけで「全滅」という話になりかねない。
 もちろん、外国からの食料輸入を否定するわけではない。とはいえ、いずれにせよ安全保障の「肝」は供給能力の多様化であり、集中化、一本化ではないのだ。

 逆に、「おカネ」「利益」に至上の価値を置くグローバリズムは、効率性追求の観点から「特定の○○」への特化を好む。俗にいうモノカルチャーだ。
 いわゆる大航海時代から、グローバリズムはモノカルチャーであった。アメリカ大陸で砂糖のプランテーションを作り、インドの小麦農家には綿花、芥子、藍といった商業作物への転換を強い、マレーシアのジャングルを焼き尽くし、ゴムの木を植える。なぜならば、そちらの方が「利益」になるためである。

 モノカルチャーは、非常事態に対して極めて弱い。少し天候不順になるだけで、その国(いわゆる植民地)では餓死者続出となる。イギリスに支配され、インドの小麦農家が綿花への切り替えを強制された結果、19世紀だけで、2000万人以上のインド住民が餓死した。イギリスによって、当時は先進国であったインドが貧困に追い込まれた。
 餓死者を続出させたという意味で、イギリスのインド支配ほど残酷な事例は、毛沢東の大躍進、スターリンのホロドモール(ウクライナ人に対する餓死強制)以外は知らない。

 それはともかく、安全保障とはいずれにせよ多様化、分散化が重要なのだ。ところが、非常事態に備えて供給能力を多様化、分散化しても、非常事態が発生しなかった場合は「ムダ」という話になってしまう。
 ムダを極力排除しようとするグローバリズムと、国家安全保障の相性が悪い理由は、
 「日本の特定地域のみで食料生産が行われるようになって構わないのか?」
 という命題について考えるだけで、理解できるはずだ。

 モノカルチャーは危険である。最近の日本で言えば、「種」の寡占化を招きかねない種子法廃止は、まさに「亡国の政策」としか呼びようがない。都道府県に稲と麦、大豆の種子の生産や普及を義務付ける主要農作物種子法(以下「種子法」)が、来年4月に廃止されることが決まった。種子法は、大東亜戦争敗北後の食糧増産を目的に、1952年に制定されたものだ。政府が地方交付税で予算を支出し、都道府県が管理する原種などから種子を生産し、毎年、農家に配布することで作物の品質を保つ仕組みになっている。
 種子法廃止の最大の問題は、これまで「税金(地方交付税)」を使い、各都道府県や公的機関、農協、農家が協力して、精密機械並に精緻に「原種、原原種、優良種」である種を各圃場で生産し、農家に多様な種を「安く」提供していた仕組みに対し、予算がつかなくなることである。
 実は、種子法廃止もまた「緊縮財政」の問題なのだ。
 種子法が廃止され、都道府県の圃場管理の予算がなくなると、間違いなく種子の価格は上がる。というよりも、種子の価格を引き上げることこそが、種子法廃止の目的なのである。

 モンサントやカーギルなど、アメリカのアグロバイオ企業、穀物メジャーの代理人である日本の規制改革推進会議は、平成28年10月6日 未来投資会議構造改革徹底推進会合「ローカルアベノミクスの深化」会合 規制改革推進会議農業ワーキング・グループにおいて、

2.施策具体化の基本的な方向
(1)生産資材価格の引下げ
 (10)戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する。

 という、意味不明な理屈に基づき、種子法廃止を提言した。
 これまで、日本は「種子法」により、税金を使い「安く、優良で、多種多様な種子」を農家に提供してきた。日本の優良で安い種子は、「税金(地方交付税)」により担保されてきたのである。それを「生産資材価格の引き下げ」というお題目で廃止する。意味が分からないのは、筆者だけではあるまい。
 種子法が廃止されれば、間違いなく日本の種子は「高騰」の方向に向かう。そもそも、日本の種子が安すぎることを問題視したモンサントをはじめとするアグロバイオ企業が、種子法の廃止を望んだのである。

 しかも、種子法廃止の1カ月後に可決された農業競争力強化支援法により、
 「都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。」
 という、異様としか表現のしようがない条文までもが法律化されてしまった。
 過去何十年という期間、税金を使い、日本の都道府県が蓄積してきた「種子のノウハウ」が、外資系を含む企業に提供されていくことになるわけだ。最終的に、日本の種子産業はモンサントに代表される巨大アグロバイオ企業に支配されることになるだろう。50年後には、天皇陛下はモンサント産遺伝子組み換えの稲で新嘗祭を執り行うことになる。

 いかなる言い訳をしようとも、安倍政権、そして種子法廃止法案および農業競争力強化支援法に賛成票を投じた国会議員たちは、亡国の輩なのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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