中島史恵 2019年6月6日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』第317回 MMTという黒船の上陸(後編)

掲載日時 2019年04月23日 06時30分 [社会] / 掲載号 2019年5月2日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』第317回 MMTという黒船の上陸(後編)
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 MMT(現代貨幣理論)は、一応「理論」となっているが、実のところ「現実」の解説にすぎない。銀行預金というおカネは、何らかの借用証書と引き換えに、銀行が「ゼロ」から発行するおカネである。政府は国債発行の際、国民の金融資産(銀行預金など)を借りているわけではない。逆に、政府が国債を発行すると(政府小切手という借用証書が銀行に持ち込まれ)銀行預金というおカネが増える。

 上記は単なる「現実」なのであるが、経済学や一般常識から見ると、考え方がまさしく「真逆」になっている。当然ながら、MMTはアメリカや日本の経済学者、あるいは財政破綻論者から猛烈な攻撃を受けている。
 何しろ、経済学や常識の貨幣観とMMTでは、天動説と地動説ほどに考え方が異なるのだ。無論、経済学や常識の貨幣観が「天動説」であり、MMTが「地動説」になる。

 元々、地動説の貨幣観を主張し続けてきた(というよりも、現実を説明していただけだが)筆者にとって、MMTは単なる説明手法の一つにすぎない。とはいえ、経済学からしてみれば、自分たちの足元を破壊する鉄球クレーンそのものだ。

 さらに、財務省をはじめとする財政破綻論にとってMMTは、まさに「破綻論という太平を揺るがす黒船」である。しかも、厄介なことにMMTは現実を説明しているにすぎないため、ロジックをもって反論することができない。

 というわけで、現在の日本では、ほぼ毎日のようにメディアでMMTをおとしめる印象操作の記事が報じられている。例えば、時事通信は4月8日に〈政府は借金し放題?=「日本が見本」、米で論争〉というタイトルで、MMT批判の記事を報じた。MMTは、別に「政府は借金し放題」などとは主張していない。第315回で解説した通り、自国通貨建て国債発行の上限はインフレ率、あるいは供給能力であり、財政的な予算制約はないという事実を語っているだけである。

 もっとも、その手の正しい知識を持たない一般大衆は、「MMTは政府が借金し放題と主張している」といった藁人形(ストローマン)をこしらえ、釘を打ち付けるストローマン・プロパガンダに、すぐに引っ掛かる。あるいは、アメリカの経済学者たちが繰り返しているように、MMTに「ブードゥー経済学」といったレッテルを貼り、内容ではなく印象で批判するわけである。ちなみに、筆者も「三橋は国債を無限に発行できると言っている(※言ったことはない)」といったストローマン・プロパガンダや、「放漫財政主義者」といったレッテル貼りで日常的に攻撃され続けている。

 それはともかく、自国通貨建て国債の「発行上限」はインフレ率、モノやサービスの生産能力(供給能力)であり、財政赤字の額や負債残高ではない。何しろ、政府は子会社の中央銀行に自国通貨建て国債を買い取らせることで、負債の返済や利払いの負担が消滅してしまう。

 政府の国債発行や財政支出により国民経済の「総需要」が膨らんでいくと、やがては供給能力の限界に突き当たる。供給能力を無視して国債発行・財政支出拡大を続けると、インフレ率が健全な範囲を超えて上昇してしまう。それこそが、自国通貨建て国債の発行上限である。あるいは、発行上限にするべきだ。

 逆に考えると、国民経済が投資を蓄積し、生産性を向上させ、供給能力を引き上げていく限り、国債発行の上限が自動的に高まっていくことになる。例えば、日本経済の供給能力が年間1000兆円の需要も満たせるほどに強靭であれば、日本政府が100兆円の追加的な国債発行で消費や投資を拡大したとしても、特に支障はないことになる。なにしろ、普通に需要が満たされ、物価も金利も上がらないのだ。何の問題もない(実際には、日本の供給能力がGDPの2倍近い1000兆円の需要を満たせるとは考えていないが)。

 さて、国債発行の上限がインフレ率、供給能力であるという「事実」を説明すると、今度は「ならば、デフレの日本は税金を取る必要がないではないか! 無税国家日本の誕生だ!」などと、筆者やMMTの主張の「胡散臭さ」を強調することで、主張をおとしめようとする連中が出現する。この手の連中は、そもそも「税金」について理解していない。税金の役割とは、別に政府の支出の「財源」だけではないのだ。

 税金の役割は、主に3つある。1つ目は、埋め込まれた景気の「ビルトイン・スタビライザー(安定化装置)」としての機能。好景気の時期には徴税を増やし、可処分所得を減らすことで景気を鎮静化させる。逆に、不景気の時期には徴税を減らし、可処分所得を増やすことで景気を回復させる。

 2つ目は、格差縮小を目的とした「所得再分配」。高所得者層から税金を徴収し、低所得者層あるいは「国民」向けの公共サービスに支出することで、格差を是正し、国内を安定化させるのだ。国内の所得格差が縮小し、社会が安定化すると、高所得者層も「安心して暮らせる」という形でメリットを享受できる。

 そして、3つ目が「財源」。厳密には「政府が財源として“日本円”での税金の支払いを求め、さらに公共サービスや公共投資の支出を“日本円”で行うため、日本国内では日本円以外の通貨の流通が制限される」となる。政府が支出の財源を建前に徴税する際に、通貨を「日本円」に限定するのだ。結果的に、日本国内では日本円が通貨として流通する。国民は、国内で異なる通貨を使用せざるを得ないといった不便から解放されるわけだ。

 上記の通り、税金には「ビルトイン・スタビライザー」「所得再分配」「財源(及び通貨の強制)」と、主に3つの役割がある。デフレが継続し、財源として徴税する必要がなくなったとしても、景気を安定化させ、さらに格差を縮小するためにも税金は必要だ。つまりは、日本は無税国家に「なるべきではない」という結論になる。

 MMTという黒船の上陸は、日本国民に「財政」「国債」「供給能力」「税金」といった国家の基本概念について、改めて学ぶ機会を与えてくれた。この機会を逃さず、財政破綻論を打破することさえ果たせれば、我が国には繁栄の未来が待ち受けている。逆に、財政破綻論に基づく緊縮財政が継続すると、我が国の未来は発展途上国確定だ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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