☆HOSHINO 2019年6月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第43回 民間刑務所株式会社

掲載日時 2013年09月14日 15時00分 [政治] / 掲載号 2013年9月26日号

 アメリカのノーベル経済学者ジョセフ・スティグリッツ教授は、自著において、
 「アメリカの政治制度は上層の人々に過剰な力を与えてしまっており、彼らはその力で所得再配分の範囲を限定しただけでなく、ゲームのルールを自分たちに都合よく作りあげ、公共セクターから大きな“贈り物”をしぼり取ったからだ。経済学者はこのような活動を“レントシーキング”と呼ぶ。富を創出する見返りとして収入を得るのではなく、自分たちの努力とは関係なく産み出される富に対して、より大きな分け前にあずかろうとする活動のことだ」
 と、書いている。

 本連載でもたびたび取り上げている「レントシーキング」であるが、アメリカにおける公共セクターの民営化、規制緩和の進行具合は半端ではない。
 何しろ、アメリカでは'80年代以降、刑務所という「行政サービス」までもが民営化されるようになってしまったのだ。
 刑務所という資産は政府が保有したまま、運営について「民間刑務所株式会社」が委託を受ける。そして、信じ難い話だろうが、民間刑務所(株)の売上は「刑務所の稼働率」により決定される。
 すなわち、刑務所の稼働率が高ければ高いほど、民間刑務所(株)の売上や利益が増える仕組みになっているのだ。

 アメリカの下院で審議中の法案の中に、「移民制度改革法案」がある。本法案は国境監視や不法就労取り締まり強化の内容を含んでいる。
 本法案が成立すると、間違いなくアメリカの刑務所に収監される不法移民が増える。刑務所の収監者が増えると、即ち「刑務所の稼働率」が上昇し、民間刑務所(株)は売上が高まる。
 現在、アメリカの民間刑務所(株)が受け取る予算は、収監者1人当たり6万ドル(約600万円)に及ぶケースがあると言われている。不法移民として収監される人が1人増えるだけで、民間刑務所(株)は年間の売上が600万円増えるわけだ。
 というわけで、アメリカの刑務所業界は「移民制度改革法案」に強い関心を寄せている。より露骨に書くと、法案成立のためのロビー活動に精を出しているのである。

 現在、アメリカの刑務所の収監者数は約250万人で、世界最多だ。収監者の大半は不法移民だが、近年は些細なトラブルが原因であるにもかかわらず、刑務所に収監される人が増えている。
 たとえば、不法移民のアメリカへの再入国は、以前は起訴の対象とならなかった。ところが、近年は最高3年の実刑を言い渡されるケースがある。不法移民を単に強制送還するだけでは、アメリカの民間刑務所(株)が儲からない、という話だ。
 さらに酷いことに、アメリカの民間刑務所(株)は刑務所の運営のみならず、収監者の「派遣業」でも利益を上げる。収監者を土木事業などへの派遣に出し、売上を上げるわけだ。
 想像がつくだろうが、収監者に支払わなければならない賃金は極めて安い(時給数セントだそうだ)。すなわち、産軍複合体ならぬ、産獄複合体が形成されているのが、現在のアメリカの姿なのだ。

 収監者が「低賃金労働者」として使われるのは、何も土木プロジェクトとは限らない。何と、企業のコールセンターの業務に収監者が就いているケースもあるのだ(とにかく、人件費が安い)。
 企業から見れば、正規社員はもちろんのこと、派遣社員を雇うよりも民間刑務所(株)に収監者を派遣してもらった方が、安上がりで済むという話なのだ。
 アメリカで企業の相談窓口に電話をかけると、実は「刑務所内に設置されたコールセンター」に繋がっている、などというケースは、もはや普通のことである。
 刑務所の稼働率を高め、さらに収監者を派遣として働かせることで、民間刑務所(株)の利益は最大化され、株主に配当金が支払われる。冗談でも何でもなく、アメリカでは刑務所が「美味しい投資先」と化しているのが現実だ。

 ちょっと待って! と、心の底から叫びたい。刑務所の稼働率が低い、すなわち収監者が少ないことは、社会的に見れば慶事である。つまり、犯罪者が減っているという話だ。
 ところが、アメリカの場合、社会の治安が改善し、刑務所に送られる犯罪者が少ないと、民間刑務所(株)の売上は減ってしまう。
 不法移民で言えば、強制送還するよりも、実刑を食らわせて刑務所に放り込み、彼らを低賃金労働者として派遣した方が、民間刑務所(株)は「儲かる」。これは、普通に「人権侵害」と言わないだろうか。

 実は、昨今の日本の治安は、年々、改善している。読者が「そんなはずはない。日本の治安は悪化しているはずだ!」と思われたとしたら、一部の凶悪犯罪を繰り返し報じるメディアに印象操作されてしまっているためだ。
 犯罪が減り続ける我が国においてまで、刑務所の株式会社化や民営化を叫ぶ人が少なくない。すでに、刑務所のPFI(民間資金の導入)は数件、始まってしまった。
 恐らく、刑務所のPFIや株式会社化を推進する人たちの多くは、「善意」に基づいており、自分が正しいと信じているのだろう。とはいえ、彼らの「背後」には、刑務所の民営化で「利益」を得る「誰か」が必ず存在しているのだ。
 この冷徹な事実を、日本国民は理解しておかなければならない。

三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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