葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第150回 正しい地方創生策

掲載日時 2015年11月19日 10時00分 [政治] / 掲載号 2015年11月26日号

 2013年、島根県出雲市の出雲大社の観光客数は、60年ぶりの大遷宮(本殿遷座祭)の影響で804万人に達し、対前年比で2.3倍を記録した。その分、'14年以降は大幅な反動減が懸念されていたのだが、現在も年間600万人を超える高水準が続いている。
 出雲大社の参道にある商店街では、飲食店の進出がラッシュになっている。'14年4月にはコーヒーチェーンの『スターバックスコーヒー出雲大社店』が、'14年11月にはカフェとそば店の複合店舗『ご縁テラス』が、'15年2月にはスイーツの『いづも寒天工房』が開業。また、共立メンテナンスは大鳥居から数百メートルの位置でホテル建設に着工。すでに敷地内で温泉の掘削作業を終え、2017年の開業を目指している。

 出雲の活況に一役買っているのが、'15年3月に全線開通した中国横断自動車道尾道松江線(中国やまなみ街道)だ。とにかく、出雲はいわゆる「観光資源」には恵まれているものの、交通インフラの未整備により観光業や関連産業が伸び悩む典型だった。何しろ東京から出雲に赴くには(のんびりと行く寝台特急などは別にして)事実上、飛行機以外の手段がない。羽田から出雲への直行便は、1日5本にすぎない。
 1973年に計画され、いまだ着工すらしていない山陰新幹線が開通し、関西や関東からのアクセスが向上すれば、膨大な人数の観光客が出雲を訪れることになるだろう。交通インフラの整備は、日本国民と出雲との間の距離を(事実上)縮める。交通インフラに限らず、インフラとは国家の基盤だ。基盤がある地域と、ない地域で“競争”をさせるなど、不公平極まりないわけである。

 まずは基盤をある程度は公平にした上で、互いに切磋琢磨(競争ではなく)する。これが、わが国の正しい地方創生策だ。インフラの不公平を放置したまま、
 「地方同士で競争し、負けた地方は自己責任」
 などとやった日には、わが国の場合は東京一極集中がさらに加速し、最終的には「首都直下型地震」で国家存亡の危機に直面する羽目になりかねない。

 10月31日、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)が埼玉県内で全線開通し、東北道から東名に抜ける所要時間が75分と、首都高速道路経由と比較し、約1時間の短縮になった。これで、ますます東京の渋滞が緩和されることになる。
 '15年3月の山手トンネル(中央環状線)全線開通により、都心環状線の交通量が約7%減った。結果的に、中央環状線の内側の渋滞が約5割も減少。特に、羽田空港を行き来する都民をいら立たせていた浜崎橋JCTの渋滞が、ほぼ解消した影響は大きい。首都高を使わない方にとっては信じられない話だろうが、山手トンネル開通前、浜崎橋JCTでは1日に平均9時間(!)の渋滞が発生していたのだ。
 筆者にしても、浜崎橋の渋滞に巻き込まれた回数は10回や20回ではない。それが、山手トンネル開通後は、本当にゼロになった。

 インフラストラクチャーとは、交通インフラに限らず、「あって当然のもの」という認識になりがちだ。そして、インフラについて国民が「あって当然」と思える国は、むしろ幸せなのである。土木・建設の供給能力が健全で、政府が適切なインフラ投資やメンテナンスを実施している証であるためだ。
 日本も、かつてはそういう国だった。そして、今は違う。
 日本国民はあらためて、インフラ及び「インフラを建設する供給能力」を担う土木・建設業の重要性について考え直すべきなのだ。土木・建設業を担う日本国民がいなければ、われわれは快適な日常生活を送ることもできない。ビジネスで所得を稼ぐのも難しくなる。さらに、日本国は自然災害大国だ。自然災害大国である以上、国民がある程度は分散して暮らす必要がある。さもなければ、いざというときに「助け合う」ことができない。
 同時に、経済成長率を高めるためには、各地域同士が「一体化」し、分業の効率を高めていく必要があるのだ。「分散して暮らす」と「各地域が一体化する」という、一見、相反する命題を実現するのが、高速鉄道や高速道路といった交通インフラなのである。

 インフラ建設により、各地域同士の「距離」を縮め、生産性を高める。これこそが、今の日本にとって正しい地方創生策だ。また、「正しい地方創生策」を推進する場合、インフラ整備に加え、「税制」も重要になる。
 インフラ整備により東京圏と地方の生活面、ビジネス面の格差を解消し、さらに地方移転に対し税制優遇措置を講じるのだ。無論、インフラ格差を「ゼロ」にすることは不可能だろうが、それでも、
 「ある程度は便利で、さらに税制面で優遇措置を受けられる」
 という話になれば、東京から地方へと、一極集中とは逆の流れが起きる。

 実は、政府はすでに地方移転に対し税制優遇措置を設けており、実際にいくつかの企業が本社機能等を地方に移し始めているのだ。具体的には、YKK AP、医療機器メーカーのべセル、サントリープロダクツ、アパレルメーカーのキャン、産業用冷凍機メーカー前川製作所などとなる。
 東京23区の企業は、地方に本社機能を移すか、もしくは地方拠点を拡充すると、法人税の軽減措置を得ることができる。例えば、
 「特定業務施設の新設又は増設に関する課税の特例」
 「特定業務施設において従業員を雇用している場合の課税の特例」
 などで、移転を伴う投資に対し、特別償却25%、税額控除7%を受ける、あるいは増加雇用者一人当たり50万円の税額控除(移転を伴う場合は最大80万円)を受けることができる。

 税制優遇のみ、あるいはインフラ整備のみでは、なかなか企業は東京から本社機能等を地方に移そうとはしないだろう。二つがそろうことで初めて、本格的な「地方創生」への道が開ける。
 どれだけ税制を優遇されても、「不便な地域」に企業が移転することはない。安倍政権はインフラ整備には相変わらず否定的だが、税制優遇は始まっており、成果も出始めている。是非とも、安倍政権には税制優遇策を継続した上で、地方のインフラ整備を進めるという「正しい地方創生策」に立ち戻ってほしいのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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