葉加瀬マイ 2018年11月29日号

自由化を目前に蠢動する東電の不気味な“倍返し”

掲載日時 2016年03月19日 14時00分 [社会] / 掲載号 2016年3月24日号

 東京電力が福島原発事故で起きた炉心溶融(メルトダウン)の際、社内マニュアルの基準に従えば事故から3日後の2011年3月14日には「メルトダウンと判定できた」と発表した。思い返せば、東電は同年5月半ばまでメルトダウンの事実を公表していなかったのだが、あれからすでに5年がたっている。しかも、社内のゴタゴタにかかわる話で、何を今さらの感がありあり。当然、この“釈明”は憶測を呼んでいる。

 新聞・テレビは「それ見たことか」と東電に非難を浴びせた。事故翌日(3月12日)の午後、原子力安全・保安院(当時)の公表担当者が記者会見でメルトダウンの可能性に言及し、これをテレビで見た菅直人首相(同)サイドから「重要な発表は官邸を通せ」と横ヤリが入り、件の担当者が更迭されている。そんな切迫した状況を踏まえれば、東電関係者が放射線量の強さなどから「すでにメルトダウンが始まった」と認識していたのは疑う余地がない。

 問題は世間から袋叩きに遭うのを承知で、5年も遅れて事実関係を公表した背景である。
 「2月に入ってマニュアルの記載に気が付いた。だから速やかに公表したとの論法ですが、原発事故は今も疼くキズですよ。本来ならば頬かむりを決め込み、マニュアルの存在を無視し続けることも現実には可能だったはずです」

 そう前置きして東電ウオッチャーは同社を取り巻く環境の激変を指摘する。一つは福島原発事故で勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が業務上過失致死罪で強制起訴されたこと。もう一つが来月の4月1日をもって東電が持ち株会社制へ移行し、「火力・燃料」「送配電」「小売り」「水力・再生」の4社に分割されることだ。これに伴い世間の関心は電力小売りの全面自由化にシフトしているが、当事者である東電にとっては“生体解剖”の意味を持つ。
 「東電には“原発素人”の菅首相が事故直後に現地へ乗り込み、ワーワーわめき散らしたことで現場が混乱し、被害が拡大したとの反発が根強い。原子力安全・保安院のスポークスマン更迭また然りで、そのトバッチリで生体解剖の揚げ句、旧経営陣が強制起訴させられたと思っている。一方、反原発を唱えるだけでエネルギーの将来ビジョンも示せない菅元首相はお咎めなし。東電マンが『なぜわれわれだけ非難されるのか』との強い意識が一連の動きから透けてくるのです」

 そのこととの関連性はともかく、電力業界には今、悩ましい問題が浮上している。新電力などの新規参入業者と契約する場合、電力使用量を計測するスマートメーターを新たに切り替える必要がある。ところが、現実には工事が大幅に遅れ、4月1日の解禁に間に合わない可能性が出てきたのだ。たとえスマートメーターの設置が間に合わなくても“見切り発車”は可能だが、新規参入業者にシフトする家庭が多ければ多いほど誤請求の対象になりやすい。まさにパニックの連鎖だ。

 問題はそれだけではない。東電から他社へ移行した場合、電気料金は「託送業務システム」を通じて管理し、新規参入企業が料金を請求する。しかし、東電管内だけで2700万世帯もあり、その1割が“脱東電”を図ったとしても簡単には追い付かない。その数がもっと増えれば大規模なシステム障害が現実味を増す。産業向け電力自由化と違って、個人を対象とした電力全面自由化は裾野が広い分、影響は大きいのだ。関係者が辛辣に言う。
 「情報システムの遅れは以前から指摘されていた。とりわけ託送業務システムは開発が難航しており、東電から請け負った三菱電機も苦慮しています。まして、世を上げての“東電バッシング”ですからね。新規参入組がウハウハするような電力自由化に、東電はもちろん、三菱電機が距離を置いたとしても不思議ではない。準備遅れを承知で4月にスタートした場合、何が起こるか分からない。土壇場の延期も十分にあり得ます」

 折も折、新電力では5位の日本ロジテック協同組合が電力事業から撤退することが明らかになった。資金繰りが急速に悪化したためで、同社は東電に対し、送電線に使う「託送契約」の廃止を申し入れたのに続いて、監督官庁の経済産業省に電力小売りに必要な事業登録の取り下げを申請した。4月に迫った自由化を前に新電力の一角が“破綻”したことで、発電所を持たないトラトラ業者は一転して逆風にさらされそうだ。経済記者が苦笑する。
 「口にこそ出しませんが、東電マンは“やっと追い風が吹いた”の心境でしょう。次は強制起訴の汚名を晴らし、菅さんに然るべき責任を取ってもらうこと。“倍返しだ”と勇み立っている雰囲気です」

 失うものなど何もない故に、東電が繰り出す“次の手”が怖い。

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