葉月あや 2019年5月2日号

本好きリビドー(67)

掲載日時 2015年08月07日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年8月13日号

◎快楽の1冊
『梟のシエスタ』 伊与原新 光文社 1400円(本体価格)

 田宮二郎主演の連続ドラマ『白い巨塔』は1978年から'79年にかけて放送された。唐沢寿明主演の平成版も話題を集めたが、リメークという印象は拭えない。財前五郎役は田宮にとってライフワークと言えるものであり、映画『白い巨塔』も傑作だが、田宮の気持ちの中にはもっと役の奥深いところに迫る演技を極めたい、という思いがあった。連続ドラマでそれを達成したのである。最終回を目前にして自殺を遂げたこともあり、多くの人の記憶に残っているドラマの一つとなった。
 しかし、たとえ田宮が自殺していなかったとしても、本作は歴史に残っただろう。山崎豊子の原作をほぼ忠実に映像化している。登場人物のセリフの一つ一つが原作から掛け離れていない。さまざまなエピソードが絡み合って長いドラマを成立させている。中でも最初の山場はもちろん次期教授選の熾烈な戦いだ。実際に投票する教授たちはもちろん、関わる者すべてがそれぞれの思惑を持っており、巧みに対立する相手を欺こうとする姿がとにかくスリリングだ。こういう出世競争はどこの業界でもあることだが、『白い巨塔』のこのエピソードが卓越しているのは、やはり大学を舞台にしているからだろう。教授は教師でもあり、人道を求められる職業だが、その実態は違う、という描き方にギャップの面白さがあるのだ。
 さて本書『梟のシエスタ』も大学を舞台にしたミステリーである。時期学長選を控えて人文学部、医学部、理工学部等の教授、講師たちの思惑が錯綜する。主人公は心理学を教える講師・吉川だが最も目立っているのは突如赴任してきた袋井准教授だ。まるで梟のように夜型の彼はまさに暗躍し、教授たちのスキャンダルを暴いていく。彼の狙いは何だ? これが本作最大の謎だ。『白い巨塔』ほど重厚ではないが、スリリングであるのは同様だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 主婦の不倫に関する書籍を多く執筆しているフリーライター・亀山早苗さんの新刊『妻たちのお菓子な恋』(主婦と生活社/1204円+税)を読んでみた。
 帯に記載してあるキャッチは「夫は主食、彼はおやつ」。そのおやつに平日午後3時、妻たちは手を伸ばす。そんな人妻66人のリアルな不倫体験が綴られている。
 昨年ヒットした上戸彩主演のドラマ『昼顔』(フジテレビ系)を意識しているのだろうか、内容は不倫がバレてしまったという失敗談が中心だ。デートの帰り、いつも同じデパ地下の惣菜を買って帰るため姑に疑われて不倫が発覚しかけた例、友人を信頼して不倫経験を話したのに密告されるケースなど。
 確かに不倫妻は、秘密の“彼”との交際事情をおしゃべりしたがる傾向があるようだ。そこで、絶対に口外しないと信じる友人に、つい告白してしまう。ところが友人はあっさりと裏切ってしまうわけだ。
 また、妻たちが自慢気に告白するあれやこれやの不倫アリバイ工作が、これまた面白い。待ち合わせは必ずホテルの部屋、しかも相手と時間差をつけて出入りし、外で並んで歩くようなデートは8年間の交際で一度もなしという主婦や、デートの打ち合わせメールは「明日は会議」といったビジネスワードを暗号として使う、スパイさながらの人妻OLなど、よく悪知恵が働くものだと思わず感心してしまう。
 たかが“おやつ”を食べるために、これだけ用意周到なのだから、女ってやつは恐ろしい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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