葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第199回 アメリカ・ファースト

掲載日時 2016年12月01日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年12月8日号

 『Make America Great Again!(アメリカを再び偉大に!)』
 このスローガンは、1980年の大統領選挙において、ロナルド・レーガンが使用したのが初出になる。

 あれから36年――。先ごろ行われた大統領選挙において、出馬表明時は「泡沫候補」としてメディアから嘲笑されていたドナルド・トランプが、『Make America Great Again!』の商標を出願。選挙運動の初期にこのスローガンが書かれた帽子をかぶり続け、自らのキャッチフレーズと化すことに成功した。
 トランプは共和党の予備選の時点から、アメリカ国民の利益を最優先する「アメリカ・ファースト(アメリカを第一に)」を基本にすると表明。今年6月23日に「ブリテン・ファースト」とイギリスがブレグジット(英国のEU離脱を指す造語)の決断を下したのに続き、アメリカでもまた「自国を第一に」の叫びが選挙で勝利したのである。

 勝因は大きく二つあった。一つ目は、ポリティカル・コレクトネス(偏見を防ぐための表現)をものともせず、「白人」に支持を訴えたことである。
 過去30年間、アメリカの政界は共和党も民主党も、共に白人労働者階級の取り込みには慎重であった。理由は、白人階級にアピールし、アメリカ国内で増加中のマイノリティーの有権者が離反してしまうことを恐れたためだ。さらには、ポリティカル・コレクトネスの概念が広まり、政治家が白人階級にダイレクトに訴えかけることがタブー化されてしまった。
 11月8日の大統領選挙では、選挙人29人を数えるフロリダ州をトランプが獲得。フロリダ州はヒスパニック系の割合が少なくなく、トランプは勝てないといわれていた。ところが、フロリダ州北部の白人階層が一斉にトランプに票を投じた結果、予想が覆ってしまったのである。

 二つ目は、かつてアメリカの重工業や製造業が集中した地域、すなわちラストベルト地帯(さびついた工業地帯の意)で、反グローバリズムの姿勢を明確化したことだ。トランプは繰り返しグローバル化を批判することで、民主党の地盤をひっくり返してしまった。
 ペンシルベニア州、オハイオ州、ウィスコンシン州、そしてミシガン州。労働組合の力が強く、民主党色が濃い地域で、トランプはヒラリーを破った。結果的に最終的な勝利につながった。

 トランプはアメリカ政府の通商政策がグローバル化を促進させ、米国の製造業の雇用を失わせたと主張。6月29日にペンシルベニア州で演説した際、グローバル化を批判すると同時に、
 「われわれの政治家は積極的にグローバル化の政策を追求し、われわれの雇用や富や工場をメキシコと海外に移転させている」
 「グローバル化が金融エリートを作り出し、その寄付によって政治家はものすごく裕福になった。私もかつてはその一人だった」
 と、発言した。
 グローバル化が原因でアメリカの労働者(特に白人労働者階級)が貧しくなっている――。この直球のグローバル化批判が、サイレント・マジョリティーに届いたのだ。

 ところで、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の調査によると、アメリカの有力紙100社の内、民主党のヒラリーを支持したのは『ワシントン・ポスト』や『ニューヨーク・タイムズ』など57社に上ったとのことである。それに対し、トランプを支持しているのはわずか2社であった。アメリカのメディアは、疑いなくヒラリーに肩入れをしていた。
 投票日2日前には、アメリカのメディアは一斉に「クリントン勝利90%」といった見出しを掲げ、ヒラリーを支援した。ところが、結果は敗北。
 ブレグジットの際にも似たような光景が見られたが、アメリカ大統領選挙においてもメディアは予測を大きく外した。グローバル化に対する人々の不満の高まりは、グローバリズムの先兵たる大マスコミをも上回っている、あるいは上回り始めたというのが真実なのかもしれない。

 さて、大統領選挙期間中は、
 「メキシコとの国境に“万里の長城”を建設し、メキシコにその費用を払わせる」
 などと暴言を吐き、ヒラリー・クリントンに罵詈雑言を浴びせていたドナルド・トランプだが、当選後の勝利宣言の場では一転、
 「クリントン氏はわが国のために一生懸命働いてくれた。アメリカは分裂の傷を縫合し、今こそ共和党、民主党、独立系みんなが一丸となって前進するときだ」
 「すべてのアメリカ人のために大統領として働くことを私は誓う」
 「国民が一緒に努力し、国を再建し、アメリカンドリームを実現することは早急の課題だ」
 と、アメリカを「一つにする」ことを目指すと宣言した。

 さらに、トランプは勝利宣言の短い演説の中で、
 「都市部のスラム化した地域を整備し、高速道路や橋、トンネル、空港、学校、病院などのインフラを整備することは最重要課題だ。そのために何百万人という労働力を投入する」
 と、まさしく日本でも必要とされている「インフラ整備」について語ったのである。
 もともとトランプ陣営は大統領選挙に勝利した場合、今後10年間で1兆ドル(約105兆円)を支出する公共投資の実施を計画していることが報じられている。

 ちなみに「財政」について、トランプは5月13日の時点で、
 「米国政府なのだから、まずデフォルトになることはあり得ない。紙幣を印刷すればいいだけの話だろう」
 と、言い方はともかく、事実としては正しい認識を示している。
 トランプはこれらのことに加え、大型減税(アメリカでは、減税は日本よりは効果はある)等の経済対策を、就任後100日以内に実行すると宣言。100日計画には、もちろん「10年で1兆ドル」のインフラ整備も含まれている。
 さらに、トランプはTPPについては「脱退」を明言し、NAFTA(北米自由貿易協定)をも見直すと宣言している。

 何ということか。グローバリズムを主導した人工国家アメリカが、世界最古の自然国家であるわが国に先んじ、国民を中心に置く政治に転換しようとしている!

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

関連タグ:三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ドナルド・トランプ


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