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やくみつるの「シネマ小言主義」 団地って「小宇宙」だったのか! 『団地』

掲載日時 2016年06月02日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年6月9日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 団地って「小宇宙」だったのか! 『団地』

 稀代のコメディエンヌ・藤山直美を、傑作『顔』以来16年ぶりに主役に迎え、岸部一徳、石橋蓮司、大楠道代が脇を固めるこの映画。チマチマとした日常の人間関係の軋轢が、団地という凝縮された空間で繰り広げられます。しかも、これだけの役者を揃えておいて「あえて、道楽で作りました」的な、軽妙なオカシミに満ちています。
 「こういう遊びを入れた脚本は、やり方によっては作り手の自己満足が強く出てしまう」と監督自身が語っているように、大げさな身振りや表情は極力抑えられ、大阪弁のテンポのいい掛け合いが続きます。まあ、ストーリーを楽しむというより、これはしゃべくりを味わう映画ですね。
 とはいえ、ラストには「何じゃこれは!」と言いたくなるシュールな結末が待っているので、お楽しみに。
 私も、チラシにさりげなく入ったコピー「なんでもあり得る昭和の集合住宅。ウワサが転がる小宇宙」の意味がやっと分かり、「宇宙の物語だったのか!」と納得した次第。

 それにしても、いつもなら怪演ぶりが炸裂しそうなメーン4人も、阪本組に初参加というイケメン俳優、斎藤工も、見事に普段のカラーを消しています。
 特に大楠道代。2004年まで公表されていた高額納税者リスト上位の常連だった本物のセレブ。なんでも、服飾ブランド『ビギ』の創業者の奥様だそうです。そう思ってみると、庶民役とはいえ、そこはかとなくセレブ感は漂っているかも。
 そして、斎藤工の「浮世離れした青年」は、ハマリ役じゃないですかね。今まで、巷の評判ほどに演技力があるとは思えなかったのですが、平板な演技がいい味になっています。

 と、ここまで役者について書いてきましたが、一番の主役を張っているのは「昭和の団地」そのものかも。
 ロケ地に選んだ栃木県足利市にある団地の年季の入った風情といい、同市の美術館内に寸分たがわず作り込まれたという室内セットの生活感といい、懐かしさとも切なさとも言いがたい感情がこみ上げてきます。
 思えば、昭和30年代では団地はモダン建築の象徴でした。小津安二郎の映画『秋刀魚の味』でも、佐田啓二が住むようなこじゃれた住宅として描かれています。
 50年代になると『団地妻』シリーズが出てきて、ちょっとエロいイメージに…。
 そしてこの映画では、団地の最終局面へ。耐震構造上からも建て替えか、取り壊しの運命にあるような古びた団地を、監督は絶滅危惧種としてフィルムに残しておきたかったのかもしれませんね。

画像提供元:(C)2016「団地」製作委員会

■『団地』脚本・監督/阪本順治 出演/藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工、冨浦智嗣ほか 配給/キノフィルムズ 6月4日(土)、有楽町スバル座、新宿シネマカリテ他全国ロードショー
 漢方薬の店を売り払い、団地へ越してきた山下清治(岸部一徳)とヒナ子(藤山直美)夫妻。団地の住人たちは、昼間から散歩ばかりの清治にあれこれと噂を口にするが、気にせず毎日を送っていた。ところが、ささいな出来事でヘソを曲げた清治が「僕は死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。清治が散歩に出なくなり、代わりにスーツ姿の若い男(斎藤工)が出入りするようになると噂はエスカレート。警察やマスコミまでをも巻き込む事態へと発展するのだが…。

■やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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