葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(109)

掲載日時 2016年06月18日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年6月23日号

◎快楽の1冊
『リボルバー・リリー』 長浦京 講談社 1850円(本体価格)

 小説における時代、というのはかなり大きなものなのである。例えば、まさしく時代小説。徳川政権下で日常ごとのごとく、いつも殺伐とした殺人が横行していたのか、それとも、案外と犯罪の発生率は低かったのか、そのあたりの事実を検証するのは歴史家の仕事である。しかし、文芸評論の立場から言わせていただくと、フィクションのリアリティー、本当らしさというものは、現実の事象とは別に、その時代が持つイメージによって左右される、とは言えるだろう。
 武士が刀を持って江戸の街を普通に歩いている。今のように銃刀法などといった法律も徹底されていない。そんな時代を背景にしていれば、刀の斬り合い、いわゆるアクションが繰り広げられても不自然には感じられないのだ。
 本書『リボルバー・リリー』は大正時代の物語である。1923年=大正12年に起きた関東大震災の頃からストーリーは始まる。
 今、私たちは第二次大戦後から70年以上を経て、平和への希求の気持ちをさらに高めているけれど、本質的なことを言えば、昭和に入ってから大戦にいきなり突入したわけではないことは、多くの人が知っているのである。1983年公開、小林正樹監督のドキュメンタリー映画『東京裁判』(佐藤慶のナレーションが素晴らしい)を見ればよく分かる。日本が江戸時代から明治期に入り、日清、日露戦争を経験したからこそ第二次大戦の悲劇がもたらされたのだ、と存分に知らしめてくれる映画だ。
 『リボルバー・リリー』の女性主人公・百合は殺しの達人であり、かつては政府の仕事に関わっていたスパイでもあった。命を狙われて銃撃を続ける彼女の姿は、勇まし過ぎるほどだ。確かに大正も激動の時代であっただろう。第二次大戦が起きるなど想像もしていないが、必死に戦う百合の姿は美しい。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 『娼婦たちから見た日本』八木澤高明著(KADOKAWA/880円+税)は、2014年に発売された同名タイトルの書籍を文庫化したもの。神奈川県横浜市の黄金町、三重県志摩市の渡鹿野島、そして基地の街・沖縄−−など、日本の売春地帯を10年以上にわたって取材した力作だ。
 こうした地で働いていた女性は、外国人が大半を占めていた。国籍はタイ、フィリピン、チリなどだ。だが、2010年ごろを境に、売春街は次々と閉鎖されていく。当局の規制強化や暴力団の締め出しが最たる原因だろうが、今では“売春宿”を見ることはない。
 時代の移り変わりに翻弄され、姿を消していく娼婦たちと、変貌する街の姿。それらをつぶさに見つめることで、成長と栄華の裏に存在した“負の歴史”を、本書はあぶり出していく。
 そうした負の歴史は、同じ国に住みながら、我々とは全く無縁の存在とされてきた。だが、外国人娼婦たちを“買った”のは、まぎれもなく日本人の男たちだ。なのに、今では“なかったもの”としている。
 そして、売春街の衰退とともに、ネット売春が始まった。目に見えた存在だった売春宿(街)の代わりに、目に見えないネット社会で、今も売春は横行している。
 著者の八木澤氏は、ネット売春の登場に「虚無感を覚えずにいられない」(あとがきより)と、感想をもらす。負の歴史に目を背け、相変わらず臭いものに蓋をしようとしてばかりの社会に、「それでいいのか?」と警鐘を鳴らしているようだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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