菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(213)

掲載日時 2018年07月29日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年8月2日号

◎快楽の1冊
『古本屋台』 Q.B.B./著 久住昌之/作 久住卓也/画 集英社 1200円(本体価格)

 実にどうも、筆者のごとき古本漁りと酒がセットで好きな身にとってはまさに辛抱たまらない、夢のような漫画の逸品にぶち当たってご機嫌だ。
 宵闇に浮かぶ屋台の赤ちょうちんには「古本」の文字。おでん種が詰まっていそうな型枠の中には当然、代わりに本が並ぶ。横で番をする、いつも野球帽を目深にかぶり、くわえ煙草で俯き加減に本を読んでいるオヤジが主。頼めば「さつま白波」をグラス一杯100円で出してくれるが、「うちは飲み屋じゃないんだから」が口癖でお替りはダメ…。
 これだけの状況設定がひたすらいい。いかにも「話」らしい話というか、小手先のストーリーがないのがニクい。一応狂言廻し役らしき男、常連らしい客の面々、登場人物が具体的にどんな職に就いて、普段何をしているかなんぞ皆目匂わせないのも、無駄な描写と説明を嫌う作者の粋とみた。
 何しろとにかく屋台のオヤジの、絵はもちろんだが人物造型がすばらしい。一見無愛想で口調もぶっきらぼうだが、静かに焼酎を呑んでいる客に不意に「キュウリ半分食べる? 味噌つけただけだけど」と渡してくるひとコマの何ともいえないほんわか感。気が向くとバイオリンなんか取り出しちゃって、弾くのが『埴生の宿』というお茶目とシブさの同居っぷり。常には酔っ払いを嫌うくせに、自分がきこしめすと、ちあきなおみの『喝采』を口ずさんだりするかわいさ。かすかな東北訛りに、若い頃熱心に読んだのがドストエフスキー、どうやら役者をしていたらしい過去も垣間見えたり…とあくまで楽しみは尽きない。
 居心地の永遠によい時間と場所を淡く描いたさりげなさ。柄本明主演での実写映画化を、個人的には希望しておこう。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 NHK大河ドラマ『西郷どん』が話題である。また、今年はちょうど明治維新150年という節目の年であることから、当時の進歩的な英傑たちや文明開化が、改めて脚光を浴びている。
 だが、同時に維新の影に光をあて、果たして教科書が教えた通り希望に満ちた世だったのかを検証しようという書籍も多い。その1冊が『明治維新という幻想』(洋泉社/950円+税)だ。
 大衆が明治新政府をどう見て、どう評価していたか。「維新の三傑」といわれる西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允の実像は…といった、これまであまり語られることのなかったテーマで、明治維新を“裏読み”しようという本だ。しかし、読み進めていくと、裏読みのほうがむしろ真実ではないかと思えてくる。
 例えば、官軍を皮肉った「風刺錦絵」という絵をテーマにした章がある。風刺錦絵とは絵に薩摩藩や長州藩の人物、徳川幕府15代将軍の慶喜らを登場させ、強烈に皮肉ったものだ。
 といっても、あからさまに彼らの姿を描いてはいない。子どもが相撲をとっていて、その相対する2人の小僧力士が官軍(薩長)と幕府軍なのである。そして、庶民はこの取り組みを、幕府に同情しつつ、冷ややかに見ていたという。大衆が幕府に同情的なのは、官軍が嫌われていたからに他ならない。
 著者は社会思想史を専門とする森田健司氏。なぜ官軍が嫌悪されていたかを解説し、そこに明治維新の影を浮かび上がらせる興味深い1冊である。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー

エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(213)

Close

マダムとおしゃべり館

▲ PAGE TOP