過去を消した女たち 第3回 美香(39) ★ストリッパーだったっていつか子どもに伝えられたら…

エンタメ・2020/03/30 22:30 / 掲載号 2020年4月2日号

 私が初めて彼女に会ったのは、今から15年ほど前のことだ。どうしても名前を伏せて欲しいということなので、仮に美香としておこう。当時、美香は主に関東地方の劇場でステージを務めるストリッパーだった。

 私は何人か取材したが、ストリッパーとなる女性というのは、社会にうまく適合できず、何をしていいのか迷っている時にストリップに出会い、天職とする者が多かった。美香もまさにそんなタイプの女性である。

 ストリッパーとなった理由について、美香は訥々と語ってくれた。
「高校を中退した17歳の頃、バイトをしても長く続かなくて、短くて1週間、続いても1カ月ぐらいでふらふらしていたんです。自分で何をしていいのか分からず、今でいう援助交際をしたりしました。見知らぬオジさんの家に何日も泊まったことも。そんな自分に嫌気が差して、リストカットをしたり、浅い海に飛び込んで、自殺の真似事をしたこともありましたね」

 そう言って、美香は左腕に刻まれたリストカットの跡を見せてくれた。

 私は美香の話を聞いて、自分の高校時代を思い出した。やはり、私も当時はバイトをしても1週間続けばいい方で、続いても1カ月ほどが限界だった。タイムカードに工作したのがバレてクビになったり、ろくでもない高校時代をのほほんとすごしていたのだが、彼女はそんな日々に思い悩み、自らを傷つけることもあったという。

 そんな鬱屈した日々に光が灯ったのが、たまたまテレビを見ていた時だった。
「とあるストリップ劇場が取り上げられていたんです。幼い時からクラシックバレーを習っていたこともあり、踊ることが好きだったんで、すぐにストリップを見たいと思いました。だけど、どこに劇場があるか分からなくて。男の子ならストリップのことを知っていると思って、どこにあるのか聞いて、テレビで見た劇場を探したんです」

 こうして、ようやく見つけたストリップ劇場だったが、当初、美香は中に入ることもできず、劇場の周りをぐるぐる回っただけだったという。次に、男友達について来てもらい、ようやく劇場の中に入った。
「どんなステージを見たのかは覚えていないんですけど、従業員さんに『ストリッパーになりたいんです』と言ったのは覚えています。年齢を伝えると、『18歳になったらおいで』と言われました」

 そして、劇場に足を運んでから1年後。当時、付き合っていた彼の反対を押し切り、晴れてストリッパーとなった美香。それから、10年にわたってステージで踊り続けたことになる。

 男性を相手にする職業に就く女性というのは、プライベートを隠すのが常である。しかし、彼女は彼がいることを公言していた。そして、彼女は結婚してもストリッパーを続けていた。それはある意味、隠しごとができない真面目な性格と、ストリップを心底愛していたことの証しでもあった。

 ところが、そんな彼女にもストリップに対する心境の変化が訪れる。妊娠、出産がきっかけだった。
「それまで、ストリップという世界と外の世界の違いをあまり考えたことはなかったんですけど、子どもが生まれたことによって、意識するようになりましたね。特に、お金の面で。それまではお金に執着がなかったんですけど、子どもを育てるにあたって、いろんなことでお金って必要なんだなって意識するようになったんです。遅いですけど」

 劇場だけが美香にとっての日常だったのが、劇場の外にある社会とも関わらなければいけなくなったのだ。
「それは大きなストレスになりました。そして、ストリップという仕事が、いかがわしいと思うようになったんです」

 ちょうど子どもが保育園に入る頃で、主にステージを務めていたストリップ劇場が閉館することもあり、それを機に美香は舞台から去った。そして現在は、主婦として生活している。
「子どもがいなかった頃は、どこへ行っても堂々と職業はストリッパーと言うことができたんですけど、今では過去を隠し続けています。学校でそんなことが知られたら、子どもがイジメられるかもしれないですしね」

 現在、子どもは小学生となったが、ストリッパーだった過去は話していない。
「乳飲み子だった頃は楽屋にも連れて行きましたけど、覚えていないみたいですね」

 それでも、ストリッパーだった頃のことを思い出すこともあるという。
「私が踊ることによって、たくさんのお客さんが拍手をして喜んでくれた。子育てをしていても、あそこまで家族から喜んでもらえることってないと思うんです。そう考えると、とてもやりがいのある仕事でした。今でも誇りに思っています。だから、いつか子どもには伝えるつもりですよ。お母さんはストリッパーだったんだよって」

 美香が踊っていた劇場は、建物だけは残っているが、看板は取り外され、往時の面影はない。そして、ストリッパーたちも、過去を消しながら日常生活を送っている。

 それでも、心の中にあるストリッパーだったという矜持が消えることはない。言ってみれば、平凡な主婦として生きる糧となっているのだった。

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