林ゆめ 2018年12月6日号

本好きリビドー(216)

掲載日時 2018年08月14日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年8月23・30日合併号

◎快楽の1冊
『夜更けの川に落葉は流れて』 西村賢太 講談社 1500円(本体価格)

さらに拍車がかかった貫多のクズっぷり
 表題作こそ70年代フォークの名曲風タイトルだが、他に収録された短篇二つがそれぞれ「寿司乞食」「青痰麺」とくれば著者のファンなら思わず“たっぷり!”と、寄席の常連じみた声をかけたくなるほど濃密な凶々しさが期待とともに立ち昇る。

 とにもかくにもお馴染みの主人公・北町貫多のクズっぷりに拍車と磨きが轟音立ててかかりすぎ。徹頭徹尾自己中心的でひがみ根性と表裏一体に根拠不明なプライドが異常に高く(数ある中でも一例として東京の、それも江戸川区生まれであることの何がそんなにエラいのかなんぞ、地方出身者でなくとも理解不能だろう)、一度その精神的地雷が他者の無意識の言動で踏まれたが最後、奈落へ転がり落ちゆく勢いですべての対人関係が崩壊の惨状を呈する過程の細緻な描写に、相変らずヒリヒリさせられっ放しだ。ところが、これが病みつきになる面白さでこたえられない。

 いつもながら会話のおかしさも読んでいて突っ込みの入れ放題で、貫多が内心大いに「慊い」(このフレーズも頻出)念いをたぎらせている交際相手に向かって遂に爆発する折のやり取り、「思い上がるな、糞付き女!」「佞奸な奴め!」「黙れ、女郎っ!」とここまで書いてて既に笑ってしまう。だいたいいつの時代の話なんだよ“佞奸(表面は従順なように見せかけて心が悪くねじくれている、の意)”って。国を憂える忠義の武士がお家乗っ取りを企む家老を斬り伏せる場面じゃないんだから。

 生まれついての性をこれでもかと持て余し尽くす男の悲哀を、絶望的に突き放す著者の筆は冴え渡ってもはや“負の聖性”すら帯びてきた印象を受ける。アンチヒーローなんて言葉より、別な語彙を探したいところ。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 もはや災害レベルといえる記録的猛暑に、東から西へと逆行する常識外れの台風。

 河川の氾濫や土砂崩れを引き起こし人を死に追いやる集中豪雨など、日本はまさに災害列島と化している。

 だが、一体なぜこのような異常現象が次々と起きるのかを、私たちは知らない。せめて「天気の仕組み」くらい理解しておけば、災害から身を守る一助として役立つのではないか。

 そこで紹介したいのが、DVD付きで分かりやすく読み進むことができる大人向け図鑑『異常気象 天気のしくみ』(学研プラス/税込2160円)。ゲリラ豪雨や台風を始め、他人事ではなくなってきた竜巻に至るまで、その発生要因や威力などを解説している。特に日頃はあまり注意することのない「雲」「水」「風」などの動きから、刻々と変化する気候のシステムを理解できる本だ。

 豊富な図解をもとに詳解された「雲の分類」や「台風のしくみ」、また「夕焼けはなぜ赤いのか?」といった、小学校の授業のような基本的な知識に加え、オリジナルDVDでは台風の目にいる時の状況を撮影した貴重映像なども収録している。飽きずに、楽しみながら読める。

 タイトルにある「異常気象」とは、本来、30年に一度起きるか起きないかというほどのレアで極端な気象を指す言葉らしいが、その30年に一度が頻繁に勃発するのが、現在の日本である。一方、いかに我々が天気に対して無知で無防備かも思い知らされる、そんな1冊でもある。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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