森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(204)

掲載日時 2018年05月26日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年5月31日号

◎快楽の1冊
『メディアの驕り』 廣淵升彦 新潮新書 780円(本体価格)

 先日の地上波某局、朝のニュース番組が酷かった。安保法制をめぐる議論の最中にあるコメンテーターがフリップを取り出して比喩的に解説を始めたのはいいとして、自衛隊が現実に武力行使を迫られる状況をシミュレーションで語るのに例として挙げたのがよりによって「戦国自衛隊」。
 挙げるのは勝手だが、そのフリップ、未知の視聴者へ作品の註のつもりか“訓練中の自衛隊員が1600年の関ケ原の戦いにタイムトリップする物語”とあるのを見てさらに目を疑った。これはもちろん川中島の合戦が正しく、時期もややさかのぼることになる上、作中の彼らは超自然現象に事故的に巻き込まれる形で信玄と謙信が対峙する場に放り出された設定であって、意図して向かったトリップではなくタイムスリップのはずだろう。半村良の原作や千葉真一主演の映画を多少でも知る人なら当たり前の常識で、うろ覚えの記憶だけでしゃべるならついうっかりで済む話が、わざわざフリップまで用意しておいてこのザマだから始末に負えない。そもそも例えも頓珍漢なら情報も二重に誤りなわけで、よくこの程度で何とかポスト紙の日本版編集長がつとまるものと呆れ返るばかり。
 軽減税率の問題が注目されれば自らを平然と「公共財」とのたまう大手新聞各紙や、もともと守られてすらいない報道における政治的公平性を定めた放送法第4条の撤廃を視野に、電波オークションの導入が検討表明された途端に言論の自由の危機を叫び出す民放テレビ各局のトップに、本書を必読必修テキストとして献呈したい。“勤勉な馬鹿ほどはた迷惑なものはない”という警句同様、帯文にあるごとく“正義を振り回す無知ほど危ないものはない”のが読後、正直な実感だ。(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 江戸時代の美女が天ぷらをおいしそうに箸に挟んで微笑んでいる錦絵が表紙の1冊。タイトルは『すし 天ぷら 蕎麦 うなぎ〜江戸四大名物食の誕生』(ちくま学芸文庫/1300円)。
 今では当たり前のように口にするこのグルメ食が、どのような経緯をもって生まれ、どう発展したのかを綴っている。
 江戸の話が中心だが、例えば、寿司は上方の押し寿司を独自にアレンジして“握り”が誕生したこと。また“土用の丑の日”の元祖・春木屋善兵衛の蒲焼、江戸市中で大人気だった二八蕎麦の屋台に、庶民が楽しそうに群がる姿を描いた当時の絵なども満載で、読んでいて飽きない。
 想像がつかなかったネタも多い。うなぎ屋にも屋台や路上の辻売りが存在したこと。つまり、町民の目の前でさばいて料理していた店があったワケだ。今でいうファストフードだが、むろん蕎麦より値段は高かったらしい。
 同様に寿司や天ぷらにも屋台があり、日本橋や高輪などの繁華街では屋台が人気を博した。
 やがて「江戸前」という看板を掲げた店が増えてくる。食材を地元で調達したうなぎや寿司、天ぷらだ。ある蕎麦屋が隣の店のメニューだった天ぷらを蕎麦に入れることを思いつく。うなぎ屋も蒲焼だけだったのが、飯と合わせたら…。こうしたアイデアが今もわれわれの胃袋を満たしてくれている。
 先人の知恵に触れると共に、食欲もソソられる1冊だ。著者は食文化史研究家の飯野亮一氏。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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