葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第178回 6月1日

掲載日時 2016年06月14日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年6月23日号

 筆者は170回を超す本連載において、繰り返し「日本の正しいデフレ脱却策」について訴え続けてきた。わが国は、存在しない「財政問題」「国の借金問題」に足を取られ、デフレの泥沼の下で今もぶざまにあがいている。しかも、すでに20年(!)近くもの長きにわたり(ちなみに、本連載第1回のタイトルは『デフレと情報の歪み』であった)。

 2012年末、「デフレ脱却」を標榜して誕生した安倍政権は、当初は金融政策「と」財政政策のポリシーミックスという、正しいデフレ対策を宣言していた。ところが、'14年度から消費税増税、公共事業削減、社会保障削減という、橋本政権以降の伝統的な緊縮財政路線に戻ってしまった。
 政府が緊縮財政で消費、投資という「需要」を削減する中、日本銀行は懸命に量的緩和を継続した。'13年4月以降、日本銀行はすでに200兆円を超す日本円を「銀行に」発行したが、直近のインフレ率は何と▲0.3%。

 なぜ200兆円もの日本円を発行したにもかかわらず、インフレ率が上がらないのか。簡単だ。インフレ率は消費、投資により、モノやサービスが購入されなければ変化しないのだ。日本円発行時に、日本銀行が銀行から買っているのは「国債」であり、モノでもサービスでもない。
 デフレは貨幣現象とやらではない。モノやサービスの購入という需要(消費+投資)が不足するという現象だ。中央銀行におカネを発行させたところで、政府が緊縮財政で消費や投資を抑制すればインフレ率が上がるはずがない。
 こんなことは小学生にでも理解できると思うのだが、安倍政権は「デフレは貨幣現象」であるとして、デフレ対策を日本銀行に丸投げした。結果的に日本国民の実質賃金は下がり続け、個人消費(民間最終消費支出)の実質値は、何と'14年度、'15年度と、2年度続けて落ち込んでしまった。統計が確認できる1955年以降、2年度連続で実質の消費をマイナスに叩き込んだのは、安倍政権が初めてだ。

 というわけで、「デフレは貨幣現象」論に基づき、橋本政権期や小泉政権期を超える緊縮財政路線を突き進んだ安倍政権であるが、6月1日、ついに転換点が訪れた。あるいは、転換点が訪れた「かも知れない」。
 6月1日の国会閉会後、安倍晋三内閣総理大臣は記者会見を開き、'17年4月に予定されていた消費税率の10%への引き上げについて、新興経済諸国を中心とする世界経済の失速、熊本地震による熊本県、大分県の観光業の悪化などを受け、日本経済が「デフレの長いトンネルへと逆戻りするリスク」があるとし、
 「内需を腰折れさせかねない消費税増税は延期すべきだと判断した」
 と表明。延期の期間についは2年半とのことである。

 会見において、総理は相変わらず「構造改革」だの「TPPの早期批准」だの寝言を交ぜてはいたが、
 「デフレからの脱出速度を最大限まで上げる」
 「ゼロ金利環境を最大限に生かし、未来を見据えた民間投資を大胆に喚起」
 「21世紀型のインフラ、リニア中央新幹線の建設前倒し、整備新幹線の建設を加速し、全国を一つの経済圏に統合する地方創生街道を実現」
 「リスクに対応するため、財政出動などあらゆる政策を総動員する」
 など、正しいデフレ対策についても実施することを明言したのである。

 筆者は'14年4月の消費税増税以降、日本は「国民経済の崖」に突っ込むとして、'17年4月の再増税に反対し、デフレギャップ(総需要の不足)を補うための財政拡大を主張してきた。特に、過去20年間、わが国がおろそかにしてきた「インフラ」への投資を、継続的に実施することが重要であると提言してきたわけである。
 6月1日の安倍総理の会見は、「構造改革」の部分を除くと、消費税増税については「延期」、さらにはインフラ投資を明言したことで、筆者の提言と「方向」は同じものになっている。
 6月1日は、わが国がデフレ脱却に向かい始めた、記念するべき日になるのだろうか。
 分からない。

 ちなみに増税延期に反対していた麻生財務大臣は、消費税率10%引き上げの2年半先送り方針について「首相の最終的な判断に従う」と受け入れた。同時に増税延期については「個人消費が伸びていないことに対応するためで、世界経済は主たる原因ではない」と述べている。
 それはその通りなのだが、なぜ「個人消費が伸びていないのか」を考えれば、もちろん'14年4月の消費税増税が主因だ。すなわち、二度も増税を延期せざるを得なかったのは、一度目の増税が原因であるという「真実」を政治家や国民が共有しなければならないのだ(ちなみに、筆者が消費税を増税するべきなどとは微塵も考えていないのは、ご存じの通り)。
 '14年4月の消費税増税が失政だった、という現実を認めない限り、再増税の凍結や「消費税減税」といった、まともな政策議論は始まらないだろう。安倍総理は会見において、「'14年4月の消費税増税」については一切、語らなかった。デフレ期の消費税増税は、デフレ促進策であるという「真実」を、安倍総理は無視したわけである。

 ちなみに、'12年の第2次安倍政権発足前の時点では、総理は「デフレ期の消費税増税は問題」であると自身のメルマガに書いている。
 結局、総理はデフレ期の消費税増税や緊縮財政について、どのように考えているのだろうか。5月31日付の産経新聞【増税再延期 公約より景気「財務省は間違い」】には、
 「財務省はずっと間違えてきた。彼らのストーリーに従う必要はない」
 という、総理の発言「らしき」コメントが掲載されている。
 財務省が間違え続けてきたのは事実だが、6月1日以降の安倍政権はインフラ投資を中心とした「継続的な」財政出動を本当に推進できるのか。あるいは、消費税増税の凍結や「消費減税」といった正しい政策の議論が始まるのか。あるいは、まっとうな議論を始めるためにはどうしたらいいのか。
 安倍政権に丸投げするのではなく、日本国民一人一人真剣に考えるべきだと思う。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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