葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(117)

掲載日時 2016年08月13日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年8月18日号

◎快楽の1冊
『テロ』 フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一・訳 東京創元社 1600円(本体価格)

 言うまでもないことだけれど、映画、テレビドラマは今や私たちの日常に普通に馴染んでいる。それに比べると、演劇はちょっと特別感があるかもしれない。チケットを予約し劇場に足を運ぶ、という手間がイベント的な楽しさをもたらしてくれるのだ。ナマを楽しむ点で、寄席やロックのライブに行くことと似ている。
 一方、演劇のストーリーを決定付ける戯曲を読むのもいいものだ。小説を読むのとはもちろん違う。ト書き、セリフだけである。しかし、読んでいるうちに、まるで自分がナマの芝居を演出しているような奇妙な錯覚が生まれる。想像力を刺激してくるのだ。
 古くはシェイクスピア、チェーホフ、あるいは日本であれば唐十郎、つかこうへい等々、魅力的な戯曲作家は数限りなくいる。
 さて本書『テロ』も戯曲である。本国ドイツで2015年に刊行された。作者は元々小説家であり、日本でも人気が高い。'09年刊のデビュー短篇集『犯罪』邦訳版は本屋大賞・翻訳小説部門の1位を得た。
 『テロ』は作者初の戯曲なのである。ストーリーの中心はタイトル通り、テロリストに関わる事件だ。だが、彼が主人公というわけではない。ドイツの上空でそのテロリストが旅客機をハイジャックした。164人の乗客がいた。それに向けて空軍少佐ラース・コッホがミサイルを撃って墜落させた。なぜか。ハイジャック犯の目的は、自ら飛行機をサッカースタジアムに落とし、7万人の観客を殺すテロ行為であった。コッホはそれを阻止するため乗客たちを殺したのだ。
 物語ではひたすら法廷の裁判が描かれる。コッホは有罪か無罪か。7万人を救うための殺人は許されるのか。議論が検察官、弁護士等の間で交わされ、ダイナミックである。セリフの応酬を活かした本作はまさに戯曲らしい面白さにあふれている。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 叶精作氏といえば雑誌『GORO』(小学館)で連載していた『実験人形ダミーオスカー』を覚えている読者も多いだろう。
 知的でグラマラスな女性たちが、巨根の男・オスカーに責めたてられるシーンに、股間を熱くした方も多いはず。
 その叶氏が作画を担当した、もう一つの傑作が『ビューティ男』だ。もともとは『プレイコミック』(秋田書店)で連載されていた劇画。これまでに何度も単行本化されているが、6月に『叶精作ベストセレクション』(リイド社/500円+税)として発売された1冊は、おいしいところだけを厳選したお得版である。
 女だらけの化粧品会社に勤務する若手男性社員が主人公。酒が入ると異様に鼻が効くという特殊能力を持っており、その力を駆使してさまざまな問題を解決するのだが、女ばかりの環境だけに、エロい展開も…というストーリー。
 また、主人公を取り巻く女性たちが、いかにも仕事がデキますというクールビューティーばかり。現在の熟女ブームを予見していたかのような絶品マダム風からアゲ嬢タイプまで、全員がゴージャスで色っぽいのである。
 現在のセクシー系漫画は、ロリコン娘を描いた作画が幅をきかせている。そうした中、大人の女のフェロモンが充満した叶氏の絵は、何とも刺激的だ。
 『ダミーオスカー』のハードボイルドな物語に比べ、こちらは現代の企業を舞台にしたライトなタッチ。気楽に愛読できるのも、うれしいところである。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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