菜乃花 2018年10月04日号

話題の1冊 著者インタビュー 辻仁成 『息子に贈ることば』 文藝春秋 1,300円(本体価格)

掲載日時 2016年03月27日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年3月21日号

 −−本書は離婚後、辻さんが1人パリで育てている息子さん(12歳)との軌跡がつづられています。シングルファーザー生活で一番大変なことは何ですか?

 辻 仕事をしながらの育児、家事です。特に離婚時、息子は小学生でしたから、中学への進学を控え、最も精神的に多感な時期でした。精神状態のコントロールをしながら、彼の将来の足取りを考える必要があり、大変でしたね。不意の離婚でしたから恥ずかしい話、胃潰瘍になり、最初の1年は医者通いをしながらの子育てでした。ただ、息子がそういう父親の苦労を察してくれて、弱みを見せずに頑張ってくれましたので、なんとか2人で乗り切ることができたと思います。

 −−ツイッターにアップされている、息子さんへの手作り弁当写真が圧巻ですね。

 辻 母親のいるお子さんに引け目を感じないように、まずは食事作りに気を配りました。朝弁という習慣を作り、栄養面も配慮し、日本人であることを忘れないようにと、和食中心に作ってきました。PTAとか家族交流などもありますから、こなしていくのはかなり大変でしたね。でも、やれないことはないという思いで、乗り切れたと思います。

 −−本書に込められた息子さんへの思いとは?

 辻 僕と息子とは44歳年が離れているんです。息子が20歳のとき、僕は64歳。この時間を縮めることは不可能。だからこそ、シングルファーザーになったとき、仕事やプライベートよりも息子の傍に寄り添って生きてやろう、生きていたいと考えたんです。息子が父親を必要とするときのために、何か残してやらなければと、もしものことを想定し、言葉を残せたらと思ったんです。自分が元気なうちは息子を守ってやろう。でも、僕の命が尽きたら、その後は、僕が紡いだ言葉たちが息子を守り、彼をきっと支えてくれるだろう、分身となってね。つまり『息子に贈ることば』という1冊は、父から息子への遺言だと思います。

 −−息子とのコミュニケーションが苦手な父親に、アドバイスをお願いします。

 辻 腹を割ること、偉そうにしないこと、同じ若さでぶつかること、本気で向かうこと、です。子供は大人の嘘を見抜きますので…。僕は彼が物心ついた頃から一人の大人として付き合ってきました。大人というよりも、人間として付き合ってきた、と言った方が正しいと思います。子供として付き合うと偉そうになりますから。親も人間であり、弱いところを持っていることを、ちゃんと子供にも伝えることが大事だと思います。
(聞き手/程原ケン)

辻仁成(つじ ひとなり)
東京都生まれ。1989年『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞。以後は作家、詩人、ミュージシャン、映画監督と、幅広いジャンルで活躍。'97年『海峡の光』で第116回芥川賞受賞。

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