菜乃花 2018年10月04日号

話題の1冊 著者インタビュー 藤木TDC 『東京戦後地図 ヤミ市跡を歩く』 実業之日本社 2,400円(本体価格)

掲載日時 2016年07月31日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年8月4日号

 −−これまで数々のヤミ市跡を訪れていますが、一番印象に残っている場所はどこですか?

 藤木 今はなくなった池袋東口の『人世横丁』でしょうか。私のヤミ市取材の原点です。池袋サンシャイン60の近く、ビル街の真ん中にポツンと残ったコの字形の飲み屋横丁は、90年代前半にはすでに時代にとり残された場所でした。その後、少しずつ活気を取り戻したんですが、'08年に突然解体されて高層ビルが建ち、今は横丁があったことを記す石碑だけが残っています。ヤミ市跡の飲み屋横丁で記念碑が残るのは珍しいんですよ。ほかには渋谷の『恋文横丁』くらいじゃないでしょうか。ヤミ市は戦後のダークな記憶遺産でもあり、忘れようとしている人も多いんです。人世横丁跡を軽く眺めてから、近くにあるやはりヤミ市由来の『美久仁小路』で飲むのが、感傷的ないい酒場旅じゃないでしょうか。

 −−確かに酒場探訪も楽しみの一つですね。昭和を感じられるお薦めの酒場といえば?

 藤木 新宿の『思い出横丁』は繁華街に近く足を運びやすいのですが、今では完全に観光地化していて、店に行列ができているほどです。私は昭和の雰囲気で静かに飲む方が好きなので、同じ趣味の人には神田の『今川小路』や日暮里の『初音小路』をお薦めします。山手線ガード下の今川小路は、空襲の戦災で出た瓦礫で川を埋めた跡にできた飲み屋横丁なので、上部は川を跨いでいた鉄橋なんですよ。初音小路は谷中墓地の近くで、横丁ができた'51年当時の木製のアーケードが今も残っていて、独特の雰囲気があります。一見で入るには少々、勇気がいる店も多いですが、入ってしまえばどの店も気さくで楽しいですよ。

 −−最近は観光スポットになっている場所も多いですよね。新宿ゴールデン街は外国人旅行客にも人気だそうですが、ヤミ市跡観光の楽しみ方を教えてください。

 藤木 『狭い、古い、怪しい(SFA)』を楽しむということじゃないかと思います。安くて入りやすいチェーン店系の居酒屋とは対極の価値観を楽しむことです。ゴールデン街に来る外国人観光客も、目的としてはアジアの魔窟を楽しんでいるわけですから、我々も“異境の魔窟”を目指すような気持ちで、思いっ切りボロい店に入ってみるのが極意です。まぁ、魔窟といっても日本語は通じますから安心してください(笑)。古くて居心地の悪い店の中から、戦後の焼跡を生き抜いた日本人の歴史を感じるのが醍醐味といっていいでしょう。
(聞き手/程原ケン)

藤木TDC(ふじき・てぃーでぃーしー)1962年生まれ。ライター。雑誌、ムックなどに連載、寄稿。著書に『ニッポンAV最尖端 欲望が生むクールジャパン』(文春文庫)、『東京ディープツアー2020年、消える街』(毎日新聞出版)など。

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