葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(212)

掲載日時 2018年07月21日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年7月26日号

◎快楽の1冊
『日米衝突の根源 1858-1908』 渡辺惣樹 草思社文庫 1800円(本体価格)

 先の大戦を振り返る内容の書籍は依然として大量に出版されるが、だからこそとんだイカモノや愚書をつかまされてしまうことも数しれず。武士の情であえて著者と書名は記さぬが、近年刊行のもので昭和20年の6月に終戦の絶好の機会があった、と結局、それを言いたいだけの本などその最たる例だ。
 要するにそれができていさえすれば、8月の広島と長崎への原爆投下は防げたと、日本の戦争責任を問う上で議論の方向を持ってゆきたい底意が見え見え。ならば3月の東京大空襲で殺された12万人と、その直後にたて続いた名古屋や大阪、神戸への空襲で亡くなった犠牲者はどうなのか。仕方がなかったとでもいうつもりなのか?
 戦局全体を見渡せばここが切り上げ時だっただの、ミッドウェーでの敗北後に講和を模索すべきだっただの、所詮は後知恵で大所高所から裁断を下す容易さの危険は、頭で理解してもifの誘惑に勝てない言い訳にはならないはずだろう。
 日米はなぜ激突せざるを得なかったのか。ペリー来航以来、半ば宿命的にプログラミングされていた事態だったのか。今でこそ日本を仮想敵国と定めた戦略プラン「オレンジ計画」が、第二次大戦の起こるはるか以前から存在した事実は明らかだが、本書の著者はむしろアメリカ史の側に主軸を置いて明治以降の日本を照らす手法により対立に至る経緯を浮き彫りにしていく。
 南北戦争がいかに深刻な国家的危機だったのか(アメリカ分裂の好機とみて南部連合の承認に動くイギリスや、メキシコへの野心を隠さぬナポレオン3世のフランスとの暗闘)、あるいは王朝時代のハワイを巡る日米の静かな鞘当てなどを、大河叙事詩を思わせる語り口で綴った圧巻の傑作。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 今や歌舞伎町からも店舗型風俗店(デリヘルなどの派遣型とは違う、店の中で性行為ができる)が姿を消しつつある。だが、東京近郊には「え、こんな場所に?」と不可解に思えるロケーションに軒を構えている風俗もある。例えば駅前の商店街の片隅に、例えば都内の主要な鉄道路線の線路沿いに…。
 そうした店を「ぽつん風俗」と名付け、探訪したルポが『ぽつん風俗に行ってきた!』(彩図社/税込700円)だ。
 なぜ、そんな店ばかりを取り上げているかというと、「天然記念物級の貴重さ」だから。しかも、歴史は決して浅くなく、むしろずいぶん前から営業している“長寿”の店も少なくない。つまり、客からは長く高い支持を受けているのだ。
 筆者もJR山手線の田端駅―駒込駅間の線路沿いに、かなり歴史あるソープランドが立地しているのを車窓から眺めてきた。「駅前ソープ」と呼ばれ、比較的リーズナブルな価格で遊べる大衆店らしく、この本にも載っている。
 その他、下町として知られる葛飾区金町の商店街にあるソープ、風俗マニアの間では有名な千葉県船橋の通称“グリーンモンスター(緑色の大きな看板が目印の店)”など、レトロな趣の古きよき風俗店が目白押し。
 さて、コンパニオンの質は? またサービスは?
 ネタバレになるので詳細は避けるが、ひと口にいって味わい深い。男と女の肌の触れ合いを感じさせる、どこか懐かしいエロワールド。やはり風俗っていいなと感じさせるのである。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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