森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(143)

掲載日時 2017年02月25日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年3月2日号

◎快楽の1冊
『覗くモーテル 観察日誌』 ゲイ・タリーズ 文藝春秋 1770円(本体価格)

 著者のゲイ・タリーズは全米でも有数のノンフィクション作家で「ニュー・ジャーナリズムの父」として、名声を得る一方、セックスの世界に自ら熱狂的に入り込んでいったことで、悪名高き「セックス革命家」としても有名だ。取材のために自ら風俗店を“経営”し、女性にフェラチオされながらも、冷静にその時の壁の色を確認していたというから恐れ入る。10年に渡りフリーセックスを楽しみ、まさに全身全霊、精力までもかけて取材、執筆した伝説のノンフィクション『汝の隣人の妻』は大ベストセラーになった。
 本作品は1980年、タリーズが、コロラド州デンバー郊外でモーテルを所有しているという、ジェラルド・フースーと名乗る男から手紙を受け取ったことから始まる。
 フースーは経営するモーテルの部屋を改造し、天井の通気孔から30年間に渡りほぼ毎日、客の様子をのぞき見し、それをメモに取り続けていた。その詳細な様子を作家のタリーズに話すことで、自分の体験が小説になるだろうと考えたのである。フースーは数々の他人の秘め事をのぞき見した。黒人と白人とのセックス、レズビアン、ホモセクシャル、浮気する夫婦、驚くべきは、ある麻薬売人が自分の彼女を殺害し、死体遺棄した事実までも目に焼き付けていたというのだ…。
 昨年4月、雑誌『ニューヨーカー』に本書の抜粋原稿が掲載され話題になった。しかし、そのことで、フースーの名前は周囲に知られることとなってしまう。そのあまりにも衝撃的な内容に、世間からは「出来過ぎじゃないか?」との疑惑が上がり論争となったが、真実は分からない。フースーが話を作り上げたかもしれないが、作者のタリーズはそれを否定している。今や齢84になるタリーズ、論争の中心人物はまだまだ衰えを知らない革命の士そのままだった。
(小倉圭壱/書評家)

【昇天の1冊】
 AV女優といえば親や兄弟や彼氏はおろか、親しい友人にも一切内緒にしている“裏仕事”…。そんな印象を持っていた。
 だが、中には親に打ち明け、家族公認でAVに従事している、そんな女性たちもいるという。そんな家族関係をルポしたのが、『うちの娘はAV女優です』(幻冬舎/1400円+税)である。
 女優たちへのインタビューを通じ、ともすれば、世間から白い目を向けられやすいわが子を抱えた親の愛情と葛藤を浮き彫りにした1冊だ。
 少しでもよい環境で働いてほしいと、所属事務所へ中元や歳暮を欠かさない母親。「不特定多数を相手にする風俗よりは、犯罪に巻き込まれたり、性病感染のリスクは少ない」と、納得する父親。男の立場から、どうすればもっとファンの支持を得られるか、アドバイスする父親までいるという。
 一方の女優たちは、親に対して「ごめんね」と、素直に心情を吐露する者も…。そこに見られるのは、どこにでもある親と子の関係だ。確かに特殊な職業だが、AV女優にも当然のように家族がいることに気づく。
 巷では、AVに強制的に出演させられたという女性たちの被害が、声高に取り上げられている。だが、本書の女優たちは、そうしたダークサイドとは真逆の立場にいる。プロ意識が高く、健気でさえある。
 AV業界は違法性を指摘されるばかりではなく、悩み、迷いながら働く女性と、その家族が存在する職場でもあると、改めて知ることができるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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