話題の1冊 著者インタビュー 石井光太 『浮浪児1945-戦争が生んだ子供たち』 新潮社 1500円(本体価格)

エンタメ・2014/11/17 17:00 / 掲載号 2014年11月20日号

 −−1977年生まれの石井さんが、約70年前の浮浪児を調べた理由とは?

 石井 『はだしのゲン』や『火垂るの墓』といった作中や、戦中や戦後の資料で、ポツンと独りで座っている子供の写真を目にし、親を失い身寄りもない子供たちのイメージがありました。これまで戦争の犠牲者は、ひめゆりの塔や学徒出陣のような学生や、原爆の被害者などが大きく取り上げられることが多く、浮浪児は戦争の一つの大きな象徴にもかかわらず、誰も取材して来なかったし、その中で彼らだけがすっぽりと抜けたような認識が私の中にあったんです。
 また、私自身が、これまで10年ほど海外のストリートチルドレンを取材してきた中で、戦争の犠牲者には圧倒的に子供が多いことも認識していましたし、日本で同じような存在と言えば上野にいた浮浪児で、いつか彼らについて調べたいと思っていたんです。そこでこの5年間、本格的に調べ、100人近い関係者に会いました。

 −−この本に出てくる上野に集まった浮浪児たちの実際の生活は、どんなものだったのでしょう。

 石井 戦争で親を失った子供が街に放り出されたら、ゴミをあさって食べたり、当時、上野の地下道に多く集まっていた先輩の浮浪者がやっている靴磨きや新聞売りといった仕事をまねすることでしか生き抜いていけないですよね。ただ、そういう仕事は日銭を稼ぐことしかできず、突発的に何かが起こると食べていけなくなる。ですから、当時のヤクザや露天商、在日朝鮮人の人たちといった社会から見捨てられた者同士で助けあって生き抜いていたのは事実です。

 −−元浮浪児の方々にお会いしてどうでしたか?

 石井 実際に会うと、むしろそういった印象は受けないですね。それは彼らが齢を取ったからかもしれません。ただ、力強さというよりは、前向きさを感じます。おそらく人間は、生き抜いていくために力強さは必要ではないんじゃないかと思うんです。歯をいくら食いしばっても切り抜けられる状況と、そうではない状況がある。海外のストリートチルドレンを追い掛けていても同じように感じます。戦って勝てる世界は、もしかしたらそんなに難しい状況ではない。ひとりの人間の力は、いくら強くてもそんなに強くはなく、現実の圧倒的な力には勝てないんです。しかし生き残る人は、その状況を笑いに変えてしまったり、全く違うところに幸せを見つけることができたから生き抜いてこれたのではないかと思います。
(聞き手:本多カツヒロ)

石井光太(いしい こうた)
 1977年、東京生まれ。国内外の貧困や医療、戦争、災害、事件など幅広いテーマで執筆。著書に『遺体』(新潮社)、『物乞う仏陀』(文藝春秋)など多数。

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