園都 2018年6月28日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第250回 二つの壁

掲載日時 2017年12月14日 10時00分 [政治] / 掲載号 2017年12月21日号

 本連載の第246回「財務省が日本を滅ぼす」において、現代の日本には「二つの壁」があると書いた。とにもかくにも、政府あるいは「政治」が経世済民や安全保障強化を推進しようとすると、壁のいずれか、あるいは双方が立ちふさがり、全く前に進むことができなくなってしまう。
 一つ目の壁は1947年に建設された憲法九条第二項(陸海空軍その他の戦力の保持否定。交戦権の否定)だ。そして、二つ目の壁は、'97年の「財政構造改革法」に端を発するプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標である。二つの壁は、日本国民の生命や財産を守るために、政府が積極的に動くことを不可能とする。国民のために動けないのであれば、政府などいらない。ある意味で、日本国は二つの壁が原因で、「疑似国家」と化してしまっている。

 '17年11月29日午前3時18分頃、北朝鮮が首都平壌近郊の平安南道・平城付近から日本海に向けて弾道ミサイルを発射。ミサイルは高度4000キロを超すロフテッド軌道で打ち出され、青森県の西方、我が国の経済的排他水域に落下した。
 アメリカ国防省は、今回発射されたミサイルについて、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の可能性が高いとする初期分析の結果を発表。また、複数の報道機関が、北朝鮮がアメリカ本土を射程に収める弾道ミサイルのテストに成功したと主張していることを報じた。

 日本の小野寺防衛大臣は、今回のミサイルについて、
 「大陸間弾道ミサイル(ICBM)級と判断している」
 と、発言。
 韓国軍は、ミサイルが高度およそ4500キロまで上昇したと発表。過去最高の高度に達し、飛行距離は960キロ。

 安倍総理大臣は、北朝鮮のミサイル発射を受け、
 「国際社会の一致した平和的解決への強い意志を踏みにじり、このような暴挙を行ったことは断じて容認できません。北朝鮮に対して厳重に抗議を行いました」
 と、語り、国連安保理の緊急会合を要請すると表明。さらに、
 「引き続き強固な日米同盟のもと、高度の警戒態勢を維持し、国民の命と平和な暮らしを守り抜いて参ります」
 と発言した。
 もっとも、現実問題として超高度にまで上昇するロフテッド軌道で日本に「着弾」する形でミサイルを撃たれると、現在の技術では迎撃は困難だ。

 11月27日、欧州のシンクタンクであるECFR(欧州外交評議会)が、北朝鮮の「核攻撃」の標的リストを公表した。ECFRは、
 「北朝鮮の情報源から、核攻撃の標的となる可能性のある場所のリストを作成することができる」
 と報告し、具体的には東京、横浜、名古屋、大阪、京都、ソウル、グアム、マンハッタン、ワシントンD.Cなどの都市を挙げている。ECFRの報告書には、
 「平壌は、アジア太平洋の米軍の拠点と米本土の都市を襲う準備ができていると、脅迫を繰り返している」
 「日本の都市はより明確に標的とされており、それには東京、大阪、横浜、名古屋、京都が含まれている」
 と、明記されているのだ。

 日本の都市が標的にされている。
 ロフテッド軌道でミサイルを撃たれると、現在の技術では極めて困難。これが、日本が置かれている現実なのである。まずは、この現実を認めた上で、われわれ日本国民に、あるいは日本国に何ができるのか冷静に見極め、政治が動く必要がある。

 日本の安全保障強化を妨害する二つの壁のうち、憲法九条第二項の改正はあまりにもリスクが高く(下手をすると否決されかねない)、さらに時間的にも間に合わない。北朝鮮の核・ミサイル危機は、今、目の前で起きているのだ。
 日本国民の生命や財産を守るためには、憲法の範囲内で(あるいは解釈変更をした上で)可能な限りの手を打つ必要がある。当たり前の話だが、政府が国防力の強化などに乗り出すと、追加的な予算措置が必要となる。つまりは「財政」が動かなければならないのだ。そして、現在の日本において、財政を拡大しようとすると、PB黒字化目標という壁が立ちふさがる。
 というわけで、深刻化する北朝鮮危機に備えるためにも、二つ目の壁である「PB黒字化目標」だけでも、何とか破棄しなければならなのだ。PB目標を破棄した上で、敵基地反撃能力の議論を進め、早急に予算措置を取る。非核三原則を見直し、核武装の議論を始める。各家庭や公共施設に対し、核シェルター整備を推進する特別法を成立させ、予算措置を取る。

 そして、恐らく最も重要なのは、
 「現行法(安全保障関連法)や韓国政府との関係上、朝鮮半島が戦場になったとしても、自衛隊が邦人救出に向かえない可能性がある」
 という厳しい現実を、政府が明確に国民に知らせることだ。

 日本政府は朝鮮半島有事に備え、韓国内にいる邦人の退避計画を策定する方針だが、安全保障関連法において、自衛隊が在外邦人の救助を行う際には、
 (1)相手国の治安が維持され、戦闘行為が行われることがないと認められる。
 (2)相手国から受け入れ同意がある。
 (3)相手国と連携・協力が見込まれる。
 と、三つの条件が満たされなければならない。ソウルが砲撃されている最中に、自衛隊は日本人救出に向かえるのか。さらに有事の自衛隊による邦人保護活動について、韓国側の同意が必要になってしまうのである。

 アメリカのティラーソン国務長官は、北朝鮮のミサイル発射を受け、カナダと連携し「国連軍派遣国」の会合を開催することを表明。日本や韓国も加え、北朝鮮の脅威に国際社会がいかに対抗できるか協議するとのことである。次なる制裁措置は、北朝鮮にとって「最後の一撃」になる可能性が高い。残念ながら、世界は「戦争」へと向かっている。
 安倍総理が「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」と宣言するならば、「具体的な措置」に踏み込まなければならない。特に、PB目標というナンセンスな「カネの目標」に固執し、日本国民の生命や財産が害された場合、安倍総理は「亡国の首相」として歴史に名を残すことになる。まずは第一歩として、PB黒字化目標の閣議決定を決断するべきだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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