菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(137)

掲載日時 2017年01月15日 14時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年1月19日号

◎快楽の1冊
『ジャンキー』 ウィリアム・バロウズ/鮎川信夫=訳 河出文庫 950円(本体価格)

 2016年は大物有名人の覚醒剤逮捕が日本中を驚愕させた年でもあった。元スポーツ選手やミュージシャンのドラッグ使用容疑の逮捕は過去にいくつもあるが、とりわけ昨年は起訴不起訴の違いを考慮しても、ビッグネームだけあって衝撃度数は高かった。
 ドラッグに手を染める理由は人それぞれだろう。高揚感を得るため、寂しさや苦しさから逃避するため、というのはすぐ想像できる。しかし、これは一般人に当てはまることが多いように思われるのだが、背徳をファッショナブルに味わうことが格好いい、と感じて使い始める者もいるのではないか。
 本書『ジャンキー』は1953年に刊行された。アメリカ文学史にはさまざまなムーヴメントがあるけれど、中でもビート・ジェネレーションが放った前衛性、反抗精神は群を抜いている。主に50年代に活躍したこの一派を構成していたのがギンズバーグ、ケルアック、そしてバロウズだ。
 バロウズは『裸のランチ』が特に有名だが、デビュー作である本書もかなりの読み応えだ。自伝的小説である。中小企業主の家に生まれた彼は生活には困らなかったがドラッグに完全に染まり、アンダーグラウンドな世界に住むいろいろなジャンキーたちと交流を持った。その背徳の長い歳月を元に本書は生まれた。基本的に登場する中毒者たちは道徳観念に欠け、快楽をひたすら追求する。退廃という形で社会全般に対して反抗しているように感じられる。ある種ロック・スピリットにあふれている。
 その点で本書は確かに格好いい。でありながら、何と詳細に中毒者の破滅を描いていることか。ファッショナブルでありつつ恐ろし気でもある本書は、ドラッグとそれに引かれる人々の関係をリアルにあぶり出している。読んでいると冒頭に挙げた有名人の心の奥底に思いを馳せてしまう。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 マジックミラー号と聞いて、思わず「あ〜、アレね」と頬が緩む読者諸兄も多いだろう。トラックの荷台を全面マジックミラーの箱に改造し、中でAVの撮影を行う。外から中は見えないが、荷台で絡んでいる男女には、通行人が丸見え。スリルと羞恥心が満点の企画モノAVの傑作だ。
 そのAVの監督を務めた“マメゾウ”こと久保直樹氏が書き下ろした本が『わが青春のマジックミラー号〜AVに革命を起こした男』(イースト・プレス/900円+税)だ。過激にしてオモシロさがいっぱい、誰もが思いつかなかったAV作品の制作裏話が、てんこ盛りの1冊である。
 『マジックミラー号』は、あの高橋がなり氏が立ち上げたメーカー「ソフト・オン・デマンド」からリリースされた。
 今でこそメジャーな一大AVメーカーだが、マジックミラー号を制作した1996年当時は資金も乏しく、企画力とアイデアが勝負だった。
 最初は、荷台の中で女優が脱ぐだけだったはずが、次第に大胆発想がエスカレートし、ついには街頭でナンパした女を荷台に連れ込み、性行為に及ぶ。だが、ヒットシリーズになったがゆえに次々と訪れる、無理難題。そこをまた斬新なアイデアで切り抜けていく、しぶとい制作陣。
 モノ創りというのは、つくづく頭を使わなければならないと、思い知らされる。また、無理と思ったことでも、あきらめずに打開策を考えれば、道は開ける…そんな当たり前の努力を教えてくれる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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