菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(197)

掲載日時 2018年04月01日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年4月5日号

本好きリビドー(197)

◎快楽の1冊
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』 佐藤航陽 幻冬舎 1500円(本体価格)

 少し前のこと。20万円のギャラを提示されて、某商工会議所のパーティーに営業で向かったものの会場の雰囲気が最悪だった。司会に紹介され舞台に飛び出たはいいが、どのテーブルもひたすら喧しく喋りっ放し。はなから聞く耳持たず、こちらがいくら大声張り上げてもけんもほろろ。所詮一人残らず注目させるほどの技量がないだけと言われればそれまでだが、後日、約束通りの額面が振り込まれたとはいえ、その数字を眺める折の索莫さとバツの悪さときたらあなた…。
 それに引き替え200人を前にした投げ銭ライブで客席をふんだんに沸かせた後に、楽屋で渡される小銭が数えて3万円なのを確認してからいざ飲む酒の旨さ。しかと稼いだ手応えの厚みというか、お金の中に肉の身が隙間なく詰まった充実感が命というべきか。そんな感覚の持ち主にとって本書はささやかな福音かもしれない。
 デフレ不況が今よりはるかにひどかった一時期、にわかに巻き起こった「蟹工船」ブーム(「生きさせろ!」とかも)や“今こそマルクスを読み直せ”みたいな風潮は、当方とてその頃ご多分に漏れず窮乏状態にあっても実に胡散臭くて仕方なかった。いまだに健在ですね。“ソ連型共産主義は誤りだがマルクシズムは左に非ず”的に共産主義の思想的延命をソフトに図ろうとする勢力がそうじゃねえだろう、と。
 巷で話題の仮想通貨ビットコインだが、そもそも通貨自体が本来仮想的なもの、とみる原点から論じる著者が資本主義の次段階として提起する“価値主義”が本格的に浸透すれば、物心両面の意味で“負け組”(それにしても嫌な響きよ)などなくなろう。ビジネス書やハウツー本の類でなく、未来の見取り図だ。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 4年前に刊行された文庫だが、内容が抜群に面白いので紹介したい。タイトルは『女性経営者が明かすラブホテルのぶっちゃけ話』(彩図社/590円+税)
 ラブホと聞いて何を思い出すだろう? 人妻が不倫する場所、デリヘル嬢の仕事場、飲んで酔った女性を連れ込むプレイスポット等々…、淫靡な妄想は膨らむばかり。だが、経営者の立場からすると一筋縄ではいかない変人・変態が集まる所となるらしい。
 飲食物のケータリングを頼まれて部屋を訪れると、赤い紐パン姿を従業員に見せつける男性客。一晩で4人も相手をした後でもケロリとした顔のデリヘル嬢。盗撮を警戒しているのか、部屋中の装飾品や壁を破壊する男女。廊下で突然撮影し始めるAVロケ部隊。暗躍する覗き魔との尽きぬ戦い…。性という赤裸々な欲望が渦巻くだけに、人間の本性が丸出しの場所であるという。
 経営者の女性は短大卒業後に新聞記者として働いていたが、趣味のサーフィンが高じて海辺へ移住。そこでラブホ経営に乗り出したという極めて常識的な方。
 その方が仕事として変人・変態に対処するものの、客は“楽しむ”ことだけが目的だから、楽しむためなら何でもあり。ラブホで何をしようがこっちの勝手といわんばかりのワガママに振り回されながら、健気に奮闘する姿が面白い。
 読後感は「やはり利用する立場のほうが気がラク」といった感じで、つくづくラブホで働く大変さを痛感させられる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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