菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第193回 世界の歴史はイギリスから動く

掲載日時 2016年10月20日 14時00分 [政治] / 掲載号 2016年10月27日号

 大変興味深いことに、世界の歴史はまずイギリスから動く。
 現代型資本主義の始まりとなった産業革命は、イギリスがインド産綿製品(キャラコ)に対抗することを目的に、国内で生産性向上のための技術投資、設備投資を実施したことで口火を切った。
 当時、イギリス国内の衣料品市場はキャラコに席巻されており、イギリスは綿製品について資本集約型の生産を実現するべく、莫大なお金を投じた。最終的には蒸気機関というGPT(汎用目的技術)の誕生につながり、蒸気機関車、蒸気船など、さまざまな製品が開発されていった。

 帝国主義の先駆けとなったのも、もちろんイギリスである。
 産業革命で綿製品の生産性を高めたイギリスは、インドに対し「自由貿易」を要求。インドを英国産綿製品の市場、および綿花の調達先として支配。インドの住民には主権を与えない、いわゆる「植民地型」の帝国主義が本格的に始まった。
 そもそも“帝国主義”という言葉自体が、1878年に自由党系のイギリスの新聞が、保守党政権の対ロシア強硬外交や国内の排外的愛国主義の風潮を批判するために用いたことに端を発する。

 グローバリズムの象徴であった「金本位制」を開始したのもイギリスである。
 1816年にイギリスで貨幣法が成立し、ソブリン金貨について自由鋳造、自由融解を認め、唯一の1ポンド法貨として流通させることになった。ちなみに、自由鋳造、自由融解とは、金(きん)の所有者が政府に対し、相当額の金貨との交換、もしくは貨幣への鋳造を要求できるという話で、勝手に個人が金貨を鋳造、融解するわけではない。

 さて、自ら率先して始めたにもかかわらず、大恐慌後に真っ先に金本位制を離脱したのもイギリスだ。
 1931年に英マクドナルド内閣が、世界に先駆けて金本位制停止に踏み切ったのである。

 第2次世界大戦後の「福祉国家」を始めたのもイギリスである。
 第2次大戦終結直後に、イギリスで社会保障制度の拡充を示す「ベヴァリッジ報告書」が提出された。1945年に労働党のアトリー政権が成立したこともあり、イギリスは国民保険法、国民保健サービス法などを成立させ、体系的な社会保障制度を構築。医療費の無料化、雇用保険、救貧制度、公営住宅の建設などの「福祉国家」を開始する。日本を含めた西側諸国は、イギリスに倣っていった。
 この福祉国家を最初にぶち壊したのもイギリスだ。

 1979年にサッチャー政権が成立。現代にまで続く、新自由主義的、グローバリズム的な構造改革が始まったのである。現在のグローバリズムの祖は、アメリカではなくイギリスなのだ。
 そのイギリスが、今、EUという世界で最も進んだ「グローバリズム」の仕組みに背を向けようとしている。実に、興味深いとは思わないだろうか。

 厳密には、イギリス国民は移民問題に関する主権を取り戻したいわけで、別に鎖国をしたいわけでも何でもない。ともあれ、今年6月23日のEUからの離脱の是非を問う国民投票では、離脱派が勝利した。イギリスのメイ首相は10月2日にバーミンガムの保守党大会で演説し、'17年3月までにEUからの離脱交渉を始めると語った。メイ首相はEUとの離脱交渉に関し、
 「戦略を練るため、すぐには交渉を始めなかったが、あまり先延ばしにするのもよいとは思わない」
 と述べた。EUのルールでは、離脱表明をした国は、2年以内にEU関連の協定が失効する。メイ首相の演説の通り、'17年3月に離脱表明をするのであれば、イギリスは'19年3月末までにEUからの離脱交渉を終えなければならない。

 また、保守党大会ではメイ首相の後に、離脱担当相のデービス大臣が演説し、EUから離脱することで、
 「国境管理と移民数の削減を実現する」
 と、語った。すなわち、来年3月から始まるEUとの離脱交渉において、イギリスにとって「実効性のある移民制限策」を実現することを最優先に掲げたのだ。
 もし数年前にデービス大臣がこれらの類いのことを語ったならば、途端に「極右の差別主義者!」「レイシスト!」といったレッテル貼りをされてしまったことだろう。'15年のシリア難民の欧州への大量流入以降、世界はまさに様変わりしてしまったのだ。

 デービス大臣は、
 「国民投票結果のメッセージは明白だ。英国は移民に対するコントロールを強めなければならない」
 と演説したが、筆者には至極当然のことに思える。もっとも、この種の発想を「当たり前のこと」としたくはない勢力があり、すでにプロパガンダが始まっている。
 例えば、9月26日に『Newsweek』に載った記事のタイトルによると、「イギリス企業のCEO、76%がEU離脱受け事業の海外移転検討」とのことである。この調査は、あくまで売上高1億-10億ポンド(約130億円-1300億円)の、イギリスの大企業のCEOら100人に対して行われたものだ。

 EU離脱の国民投票を受け、イギリスポンドが下落。イギリス国内の企業のグローバルな価格競争力はむしろ上昇している。また、イギリスがEUと「モノ、カネ」に限定した自由貿易協定を締結する見込みは、非常に高い。何しろ、今はEU側がイギリスに対して貿易黒字になっている。関税政策等を後退させたところで、損をするのはEU側になってしまう。
 それにもかかわらず、たった100人のCEOを対象にアンケートを実施し、「イギリス企業のCEO、76%がEU離脱受け事業の海外移転検討」という見出しを付ける。日本を含め、マスコミとはこんなものだ。

 いずれにせよ、これまでの人類の「歴史のパターン」が正しいならば、世界は「グローバリズムの修正」の方向に動き出したことになる。
 ちなみに、この種の歴史的な動きがあったとき、最も「遅れた動き」になるのが、大抵はわが国だ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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