和地つかさ 2018年9月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第205回 『対外直接投資と逆輸入』という問題

掲載日時 2017年01月19日 14時00分 [政治] / 掲載号 2017年1月26日号

 日本企業が日本国外に投資し、工場や店舗などを建設する経済行為を「対外直接投資」と呼ぶ。むろん、日本国内の工場はそのまま稼働させ、外国に生産拠点を「新設」するケースもある。その場合は、わが国の雇用は影響を受けない。
 だが、現実の対外直接投資の多くは、国内の工場を閉鎖し、外国に拠点を「移す」形になりがちだ。理由は、グローバリズムが浸透した世界において、企業の対外直接投資は「(主に株主の)利益最大化」が目的であるためだ。
 所得水準が高い先進国の工場を閉鎖し、より「賃金が安い」国に工場を移転する。すると、同じ製品を生産するために必要な人件費が削減される。売り上げが変わらないと仮定すると、利益は増える。増加した利益は、株主、経営者、債権者(銀行など)に分配されることになる。また、工場が移転してきた国(新興国など)では、新たな雇用が創出され、現地の人々が工場で働き、所得を稼ぐことが可能になるため、利益を得る。

 もっとも、お分かりだろうがこのスキームが進むと、損をする人々が必ず出てくる。もちろん、もともと工場があった先進国で雇用されていた労働者である。何しろこれまで勤めていた工場が閉鎖されてしまうのだ。当然ながら、失業問題が発生する。
 雇用が失われ、国民が貧困化すると、先進国の政府は景気対策や失業対策を求められる。対策の原資は税金となるため、最終的には「株主や経営者、後進国側の労働者が得た利益」を、先進国側の国民が負担することになってしまう。

 さらに厄介な問題がある。本来、国内需要向けに国内生産されるべき製品が、対外直接投資の拡大により外国で生産され、先進国側に「逆輸入」されるケースだ。
 例えば、対外直接投資の目的が「日本以外の国々への輸出拡大」だったとしよう。その場合、確かに雇用は失われるが、輸入増による所得縮小は起きない。あるいは逆に、輸入が増えたとしても、旺盛な国内需要が満たされるだけで、雇用は失われないというケースもあり得る。
 ところが、対外直接投資で日本国外に工場を移し、さらに外国の日系工場で作られた製品を日本に逆輸入するとなると、国民経済は「雇用喪失」「需要喪失」と、二重の被害を受けることになる。しかも、国内需要が旺盛ではないデフレ期に、この組み合わせを推進されると最悪だ。まさに、日本の対中直接投資がそうだったのである。

 日本の対中直接投資は、1980年代まではゼロに等しかった。その後、21世紀に入って以降に急増。東日本大震災が発生した2011年には、年間100億ドル(約1兆円)を上回った。
 これはもちろん、震災を受けて日本企業が生産拠点を日本国から「脱出」させたためだが、それにしても2000年以降の対中直接投資の急増には驚かされる。生産拠点が中国に移ると同時に、日本は対中輸入、すなわち中国からの輸入を増やしていく。中国に生産拠点が移り、中国人民の労働により生産された生産物が、日本へと輸出されていったのである。

 本連載において、経済の「三」要素について資本、技術、労働であると解説してきたが、実はあれは「経済の供給能力」を構成する三要素なのである。三要素に加え、資源、需要という二つが加わらない限り「経済」は成り立たない。
 下図(※本誌参照)からも分かる通り、わが国は21世紀に入って以降、中国への工場建設などを意味する「対中直接投資」と、中国から最終製品を輸入する「対中輸入」の双方を拡大し続けてきた。
 理由はもちろん、そちらの方が企業の利益が大きくなるためだ。同時に、デフレで貧困化した国民もまた、安い製品の購入を望んだ。
 日本は中国に経済の「五要素」のうち、「資本」「技術」「需要」を献上し、中国経済の成長を助け、自国のデフレーション、貧困化を長期化させた。加えて、中国の軍事支出拡大を支援し、自国の財政余力を低下させ、安全保障を弱体化させることを続けてきたのである。これで亡国に至らなければ、むしろそちらの方が不思議だ。

 この種の問題は、もちろん先進国共通である。実はすでにある国で「対外直接投資と製品逆輸入」が政治問題化し、改善が始まっている。
 驚くことに、アメリカだ。
 アメリカのフォード・モーターは、1月3日、メキシコへの直接投資(工場新設)を取りやめ、代わりに米ミシガン州の工場で電気自動車(EV)と自動運転車を製造すると発表した。フォード社はメキシコの新工場において小型車を生産し、アメリカに「逆輸入」することを計画していたのだ。
 それに対し、ドナルド・トランプ次期大統領が「恥知らず」と批判。大統領就任後に高関税を掛けると公言したことを受けた計画変更と思われる。
 フォード社からしてみれば、メキシコに工場を建設し、アメリカに自動車を逆輸入することは「そちらの方が利益は増える。安い製品を流通させれば、アメリカの消費者も喜ぶ」という話なのだろうが、「国民経済」という視点から見ると、アメリカの生産者がダメージを受けてしまう。そして、国民経済において「生産者」は「消費者」でもあるのだ。

 思えば、労働者の賃金を引き上げ、購買力を高めることで大量生産した製品を購入させ、企業の売上拡大や国民経済の成長を追求する「フォーディズム」の始まりは、当たり前だがヘンリー・フォードである。そのヘンリー・フォードが創業したフォード社が、事情はどうあれ「対外直接投資&逆輸入」を取りやめた。時代を象徴しているとは思えないだろうか。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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