中島史恵 2019年6月6日号

プロフェッショナル巧の格言 第19回 福本清三(俳優) ハリウッドに認められた斬られ役一筋50年(1)

掲載日時 2014年07月04日 14時00分 [芸能] / 掲載号 2014年7月10日号

 時代劇で絶対に欠かせないのが「主役以外の役者たち」だが、「悪役・斬られ役に、本当の悪人や性格の悪い人はいない」とはこの業界でよく言われるところ。「日本一の斬られ役」福本清三も例外ではなかった。

 「お待たせしました。私なんかのために本当にすみません」
 約束の時間に現れた福本は、スクリーンの強面なイメージとは真逆の、低姿勢な好々爺。
 「みなさん、日本一の斬られ役とか言うてくれはりますが、そんな格好ええもんやありません。15でこの道に入ってから70なんぼの今まで、斬って斬られてのアホな人生ですわ」
 笑顔に刻まれた皺の一つひとつが、俳優としての長いキャリアを物語る。

 これまで映画やテレビの時代劇を中心に、斬られ役、敵役の俳優人生を過ごしてきた。キャッチフレーズは、誰言うことなく「5万回斬られた男」。だが、本人によれば「あれはね、ちょっとオーバーなんですよ。数えたことはないんですが、本当のところはその半分もいってないんじゃないでしょうか」と照れ笑い。だが、木刀を手にポーズをとると、スッと表情が変わった。穏やかな好々爺が一転してニヒルな素浪人に。鋭い目つきには殺気すら漂う。キレのある動きと軽快なテンポ、そしてオーバー気味の豊かな表情。見事にきまった立ち回りは、それ自体、一つの芸と言ってよい。

 福本清三は昭和18年に兵庫県に生まれ、15歳の時に京都に出て、親戚の伝手により「まあ、なんとなくといった感じで」太秦・東映京都撮影所の大部屋に入る。
 「入った時は役者いうよりエキストラ。ほんまのその他大勢ですから言われたことは何でもやりました。そういう中で斬られ役を目指したのは、やっぱり目立ちたいと思ったからです。女優さんなら歩いているだけでも絵になるということもありますが、男はそうはいきません。男が目立とうと思ったら、主演のスターさんと絡むしかないんです。斬られ役は、もちろん主役でも重要な脇役でもありません。でも短い時間にせよ、カメラの真正面でスターさんとからみ、引き立てるわけですから、やっぱり特別な役ですよ。通行人とは違うのです」

 斬られ役のコツ、斬られの技術を聞くと「5万回斬られた男」は、こう答えた。
 「自分なりの死に方の美学を持ち、それでもってスターさんを引き立てること。しかし、それよりもまず心がけなければいけないのは、スターさんや共演者に怪我をさせないということ。そら、その場の流れでアクシデントはありますが、たとえあったとしても、それが最小限で済むようにしなければいけません。スターさんに怪我なんかさせたら、大変なことになりますからね。だからといって力を抜いてはいけない。主役の強さを引き立てようと思ったら、こっちも全力で『この野郎!』ぐらいの気持ちで向かっていかないと場面が台無しになります。時代劇はアクションであって、喜劇じゃないのですから。怪我は怖いけど、それを恐れているようではダメ。そして相手に気持ちで負けることなく、それでいて全体を格好良く見せなければいけない。そのあたりのタイミングを言葉で説明するのは難しいです。それはもう経験ですね。でも、一生懸命やっていれば、不思議と怪我なんかしないし、たいていは格好がつくものなのです」

 若い頃は「どうすれば巧く斬られることができるか、カメラに近づけるか、ということばかり考えていました」という福本。
 「立ち回りは殺陣師さんについて習うのですが、その前に個人の努力と創意工夫が必要なんですよ」

 その試行錯誤から生まれた技術が“海老反り”だ。
 一連の立ち回りの中での最後の見せ場。スターに上段からバッサリ斬られ、苦悶の表情を浮かべ、派手にのけ反ってバッタリ倒れる。そうすることでスターの格好良さを引き立たせ、なおかつ斬られ役も目立つという、福本得意の“巧みの死に方”である。
 「斬られ役の美学に叶った死に方ですよね。斬られるなら、やっぱり格好良くですよ(笑)」

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