葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第215回 ブレグジット以降の世界

掲載日時 2017年03月26日 11時00分 [政治] / 掲載号 2017年4月6日号

 2016年6月23日、イギリス国民は世界で最も完成されたグローバリズム(モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動の自由化)の国際協定である欧州連合(以下、EU)からの離脱を、国民投票で決めた。結果的に、世界の「歴史」が動き始めた。
 同年11月8日には、反グローバル化を訴えたドナルド・トランプ氏が大統領選挙でヒラリー・クリントン氏を破り、第45代アメリカ大統領に就任することとなった。トランプ新大統領は、今年1月21日の就任演説において、
 「保護主義は大いなる繁栄と強さに導く」
 と、過去のグローバリズム路線に背を向けることを宣言した。

 現在の世界は、各国(特に先進国)の国民が「グローバル化疲れ(エマニュエル・トッド)」に陥り、「行き過ぎたグローバリズムの是正」が始まっている。だからと言って、アメリカにせよ、イギリスにせよ、鎖国するわけではない。
 究極のグローバリズム(自由主義)と究極の保護主義との間には、無限のバリエーションがある。各国は、中庸、あるいは「良識」に基づき、適切な「位置」を決めるべきなのだ。

 イギリスやアメリカは、これまでの「位置」について、
 「あまりにもグローバリズムに傾き、多数派の国民がグローバル化疲れに陥った」
 という現実を認め、グローバリズムの見直しを始めたにすぎない。両国ともに、別に国を閉ざすわけでも何でもない。これまでと比較し、「国民を中心に考え、グローバリズムをある程度は是正しよう」という話にすぎないのだ。

 3月13日、イギリス議会の上下両院は、EUからの離脱交渉を開始するメイ首相のプランを承認する法案を可決した。メイ首相は3月中にでもEUからの「離脱宣言」を行い、2年以内に新たな枠組みを定めるべく、EU側と交渉を始めることになるだろう。
 イギリスのEU離脱にしても、別に「イギリスがEU諸国と国交断絶する」といった話ではない。単にイギリスが、新たな国際協定をEU諸国と結ぶだけだ。
 例えば、イギリスがEUから離脱し、その上でモノ、カネ(資本)の移動の自由化を、互いにある程度認めるFTAを締結する、といったところが落としどころになる。
 何しろ、EU諸国、特にドイツは対イギリスで巨額の貿易黒字を稼いでいる。EU側がイギリスに反発し、「イギリスはEU離脱のダメージを受け入れろ!」などとやったところで、痛み分けになるだけの話だ。

 EUから離脱したイギリス国民は移民制限が可能になり、ブリュッセルのEU官僚から妙な法律を押し付けられることもなくなる。EU側は対英貿易黒字が減らず、シティの対欧投資もこれまで通り。何の問題があるのか、という話なのだが、グローバリズムに支配されたマスコミでは「イギリスの強硬離脱は、英国民の生活に多大なる痛みを与える」系の報道が繰り返され、ハード・ブレグジット(強硬離脱)が危険であるとの論調で満ち溢れている。
 ハード・ブレグジットとは、もちろんイギリスの離脱派を危険視し、国民を煽るために開発されたレトリックだ。現実には、イギリスのEUからの離脱は淡々と行われ、ハード・ブレグジットとやらにはならない。
 もっとも、あまりにも容易にイギリスがEUから離脱してしまうと、他の離脱予備国の背中を押す可能性がある。というわけで、EU側はイギリスとの交渉で強気で挑むのだろうが、現実には英欧が共にWinWinになる形で決着するだろう。

 繰り返すが、究極のグローバリズムと究極の保護主義との間には、無限のバリエーションがある。各国は、無限のバリエーションのどこが「自国に適した位置」なのか、「良識」に基づき模索しなければならない。適切な位置は各国の文化、伝統、歴史、ライフスタイル等によって異なる。
 「アメリカがここまでグローバル化しているのだから、日本も」
 といった論調は、成り立たないのだ。日本とアメリカは「違う国」である。違う国である以上、「良識」が異なるのは当たり前だ。

 良識のメトリクス(物差し)は、具体的には「安全」「安保」「安定」という「三つの安」になる。ちなみに、安保とは「安全保障」の略であり、安全がかぶってしまうが、本稿では、
 「安全は、ミクロな製品やサービスの安全性」
 「安保は、国家全体、国民全体にとっての安全保障」
 と、定義している。

 例えば、「モノの国境を越えた移動の自由」というグローバリズムを進めたとしても、
 「農産物の安全基準については、自国で決める。遺伝子組み換え作物は消費者の安全を害する可能性があるので、拒否する」
 「食料安全保障が脅かされる農業の自由化には同意しない」
 「農産物の安定供給を実現するために、政府が余剰農産物を買い上げる」
 といった「規制」を国家としてかけても、一向に構わないのだ。国民の安全、安保、安定を確保するために、「自由なビジネス」を制限する。筆者の良識に従えば、普通のことだ。
 この種の「良識」を無視し、「グローバリズムは歴史の必然だ」などとやっていた日には、国内は不安定化せざるを得ない。特に、安全保障の弱体化は、国家の存続すらも脅かすことになる。

 英フィナンシャル・タイムズ紙の主席経済解説委員であるマーティン・ウルフ氏は、3月14日の『経済発展には“国家”が必要だ』(Yahoo!ニュース)において、
 「グローバリゼーションの土台にあったのは『全体として平和的な環境』だということです。大きな力を持った国々がお互いに敵意を持つようになれば、グローバリゼーションは成り立ちません」
 と語っていたが、まさにその通りだ。現在の世界は、アメリカの覇権国としてのパワーが相対的に落ちている。中国の南シナ海における覇権拡大が証の一つだ。
 覇権国のパワーが低下している環境で、安全保障を弱体化するグローバル化を追求することは、亡国の路線なのだ。そして、現在の安倍政権は、まさに亡国路線をひた走っている。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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