菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第158回 デフレ脱却道遠し

掲載日時 2016年01月22日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年1月28日号

 安倍総理は新年1月4日の年頭記者会見において、
 「この3年間、経済最優先で取り組んできました。まだまだ道半ばではありますが、『もはやデフレではない』という状況を創り出すことができました」
 と語った。
 その後、フィナンシャル・タイムズ紙のハーディング記者が、
 「まだインフレ率は0%に近いのに、(中略)もうデフレを脱却したというのは早過ぎるのでは?」
 と質問したのに対し、総理は、
 「私は、デフレではないという状況を創り出すことはできた、こう申し上げておりますが、残念ながらまだ道半ばでありまして、デフレ脱却というところまで来ていないのも事実であります」
 と、答えたのである。

 記者会見と質問への回答をつなぎ合わせると、「デフレではないという状況を作りだすことができたが、デフレ脱却というところまで来ていないのも事実」という話になる。筆者には、意味がさっぱり理解できない。
 理解が「全くできない」のは、筆者の日本語読解能力が乏しいためだろうか。それとも、安倍総理が不誠実な説明をしているためなのか。
 間違いなく、後者である。
 つまりは、デフレ脱却を実現していないにもかかわらず、総理は「国民を騙す」ために、「もはやデフレではないという状況を創り出すことができた」というレトリックを使用したのだ。このままでは、安倍内閣が中国共産党並みに、発言を海外メディアに信用してもらえない状況に突入するのも時間の問題だと思う。

 それにしても、デフレーションとは「日本国民の豊かさ」と直結する話になる。すなわち、日本国民の問題なのだ。
 当然ながら、日本の各メディアの記者こそが、ハーディング記者の質問、
 「デフレを脱却したというのは早過ぎるのでは?」
 を総理にぶつけなければいけないのである。ところが、現実にはデフレについて適切な質問をしたのは海外メディアの記者であった。誠に情けない限りだ。
 年初から愚痴ばかりを言っていても仕方がないが、とりあえず総理も明言した通り、日本は「デフレ脱却というところまで来ていない」というのが真実だ。ならば、政府には適切なデフレ対策(=財政出動)を打ってもらおうではないか。

 左ページの図(※本誌参照)は、わが国のマネタリーベースとインフレ率の推移を示したものだ。マネタリーベースとは、日本銀行券(現金紙幣)と貨幣(政府が発行した硬貨)の流通高及び日銀当座預金残高の合計値になる。狭義の「日本円」と考えて構わない。
 インフレ率は、日本銀行の「定義」がコアCPI(生鮮食品を除いた総合消費者物価指数)の対前年比となっている。筆者としては、インフレ率はコアコアCPI(食料〈酒類以外〉とエネルギーを除いた総合消費者物価指数)で見るのが適切だと考え、これまでに繰り返しインフレ率の定義変更を主張してきた。最近、日本銀行がにわかにコアコアCPIを「クローズアップ」させているが、インフレ率の定義変更について公式に表明したわけではないため、コアCPIのままで使用している。
 日本銀行の量的緩和とは、銀行などから「国債」を買い取り、代金について日銀当座預金残高を「増やす」形で実施される。図の通り、黒田日銀発足以降、主に日銀当座預金残高の増大により、マネタリーベースは急拡大した。2013年4月時点では150兆円程度だったマネタリーベースが、'15年10月には350兆円に迫っている。2年半で、およそ200兆円もの「日本円」が日銀から発行されたことになる。

 200兆円もの「おカネ」を発行したにもかかわらず、なぜインフレ率が0%前後に張り付いているのだろうか。インフレ率の定義を考えれば、誰にでも分かる。
 インフレ率とは、物価、つまりはモノやサービスの「価格」の変動である。モノやサービスの価格の「上昇」は、いかなる状況になれば生じるだろうか。もちろん、モノやサービスが「多く購入されたとき」である。日本銀行が200兆円のおカネを発行し、モノやサービスを購入したならば、インフレ率は「インフレ目標」である2%どころではない水準に高騰しているだろう。
 ところが、日銀が実際に購入しているのは国債なのだ。国債とは政府の借用証書であり、モノでもサービスでもない。「誰か」がモノやサービスを購入しない限り、日銀がどれだけ莫大な「おカネ」を発行したとしても、インフレ率は上昇しないのである。

 現在、日銀の量的緩和政策で、銀行の貸し出し余力は極端な規模に拡大している。ところが、デフレが継続しているため、民間(一般企業や家計)が借り入れを増やそうとしない。だからこそ、政府が国債発行で銀行から「おカネ」を借り入れ、国内でモノやサービスを購入しなければならないのだ。
 つまりは財政出動である。日本政府が「金融政策+財政政策」という正しいデフレ対策にかじを切り直さない限り、わが国がデフレから脱却する日は訪れない。
 現在の安倍政権は、財政政策を拡大するどころか緊縮財政路線をまい進している。安倍総理の意味不明な年頭の記者会見は、政府がデフレ対策について「間違えている」何よりの証拠なのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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