菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(146)

掲載日時 2017年03月18日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年3月23日号

◎快楽の1冊
『介護殺人 追いつめられた家族の告白』 毎日新聞大阪社会部取材班 新潮社 1404円(税込価格)

 日本が高齢化社会になるにつれ、介護問題はもはや避けて通ることができない共通認識といえるが、実際は我々の想像をはるかに超える「壮絶な現実」がすでにその影を深く落としていた。
 本書は毎日新聞(大阪本社発行版)で連載されていたシリーズ企画『介護家族』をまとめ、加筆して書籍化されたもの。何十年にわたり身内の介護に明け暮れ、挙句、自身の高齢化や疲弊などからうつ状態となり、最後はやむにやまれず最愛の人を手にかけてしまう…。なぜ大切な家族を自らの手で殺めてしまったのか? 他に何か取るべき手段はなかったのか? 記者は実際に加害者となった人たちから話を聞くべく、何度も足を運ぶが、その度に断られ取材は難航を極める。
 しかし、ついには今まで語られることのなかった当事者自身の深く重い心情や、その壮絶な生活の様子が浮き彫りにされていく。
 「締めたらあかん、締めたらあかん」と呪文のように何度も頭の中で繰り返しながらも、タオルの端を引っ張ったある加害者。そこには倫理観だけでは語ることのできない人間の崖っぷちの本能が、ドス黒く渦巻きながら「お前はどうだ?」と無言で問いかけてくる。
 警察庁の統計によれば、2007〜'14年の8年間に全国で371件もの「介護殺人」が起きている。これは年平均46件で、8日に1件のペースで起きている計算だ。いつしか自分自身が加害者になってしまうかもしれない、という危惧さえ感じさせる恐るべき数値ではないだろうか。
 自分の身の回りに介護をしている人がいるという読者も多いだろう。本書によれば、介護殺人の約7割は男性だという。一方、厚生労働省の調査では、在宅介護をしている人の約7割が女性だ。追い詰められやすいのはまさに我々、男性なのだ。もはや他人事ではない現実がそこにある。
(小倉圭壱/書評家)

【昇天の1冊】
 男と女が結婚し、一つ屋根の下で暮らしていくには、互いに生まれ育った土地の食事や習慣の違いが原因となって、モメることが多い。ましてやそれが、東日本と西日本のまったく異なる文化を持つ都道府県の出身者同士なら、一体どうなってしまうのか?
 週刊実話を読む読者諸兄にも、そうした文化の違いが元で妻と衝突した経験を持つ方は、おそらく多いだろう。そんな夫婦の日々の葛藤や軋轢をコメディータッチに描いた漫画が、『北のダンナと西のヨメ』(飛鳥新社/880円+税)だ。「異色の県民性コミックエッセイ」と題された単行本第1巻が昨年3月に発売され、2巻が先月発売された。
 登場する夫婦は、夫が北海道釧路出身、妻がコテコテの関西人。“あたりまえ”と思っていた常識が、相手に通じない。
 例えば、イクラは夫にとっては「ふりかけ」のようなものだが、妻にその理屈は通らない。次に食パン。関西では1斤4枚切りの分厚いパンが主流らしく、8枚切りでは薄くてサンドイッチにも使えない。
 距離感の違いも顕著。北海道では「ちょっとそこまで…」は、車で1時間移動は当然。だが、関西育ちの妻にとっては遠すぎる。妻の母が着ている関西女性特有の驚天動地のファッションに口あんぐりの夫などなど、狭い日本で、これほど異文化の衝突が起きるのかと、読んでいて飽きない。
 著者の横山了一さんによる全編描き下ろし。夫の行動に戸惑う関西人妻のド派手なリアクションが面白い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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