菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(98)

掲載日時 2016年03月26日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年3月21日号

◎快楽の1冊
『被差別のグルメ』 上原善広 新潮社 740円(本体価格)

 全国各地で開催されているB級グルメのブームもすっかり定着した感があるが、その中でも「ソウルフード」と呼ばれる地域特有の郷土料理は、地元の人のみならず、その地を訪れる観光客にとっても人気だという。
 もともと、ソウルフードとは魂(Soul)を意味し、アメリカ南部の奴隷制から生まれた伝統料理のこと。今でこそ“懐かしい故郷の味”としての意味合いが強いが、本書の筆者いわく「本物のソウルフードとはそれを食卓に出すだけで、離婚沙汰になる恐れがあるほど苛烈なものだ」という。
 路地で生きる人々が、その土地だけでしか食することのできない食べ物がある。大阪のアブラカス(牛の腸のいり揚げ)、サイボシ(馬肉の薫製)、ゴシドリ(カメ)、沖縄のイラブー(海ヘビ)、ソテツ、アイヌの鹿肉、鍋料理などだ。出自を隠して嫁いでも、幼少の頃から慣れ親しんだ食文化だけは変わらないために、結局は相手にバレてしまうということらしい。
 グルメ関連の書籍は数あるが、本書は日本各地の被差別部落から生まれたグルメを紹介している点が異色だ。昨今、ブームになっているホルモンも、もともとは内臓専門の問屋が独占していた部位で、下処理が難しく一部の地域でしか食べることができなかった。ところが、今では処理技術の向上や冷蔵保存が可能になり、全国に広まっている。
 その一方で「差別されるから」という理由で、伝統的な料理方法が継承されずに、消えゆく食べ物も多いという。
 おいしい料理を求めて、さまざまな店で舌鼓を打つのもグルメの醍醐味ではあるが、その料理が持つ歴史や背景を知ることもまた一つの楽しみでもある。昔から地域に根付いている食文化は、そこに住む人たちの生活と深く関係しており、文化的な側面を考察する意味でも有意義な一冊だ。
(小倉圭一/書評家)

【昇天の1冊】
 現在のAVと風俗は「熟女」が花盛りだ。しかも、年齢層は幅広く30〜50代、素顔もOL、主婦、バツイチ、子供アリとさまざま。経済的に困窮しているという女性が多く、つまり、熟女たちは生活のためにカラダを“売る”のである。
 そうした貧困にあえぐ熟女風俗嬢たちを丁寧に取材したルポルタージュが、『熟年売春 アラフォー女子の貧困の現実』(ミリオン出版/1000円+税)である。
 著者は中村淳彦氏。『職業としてのAV女優』(幻冬舎)をはじめ、現代ニッポンの“セックスワーカー”に関する著書が数多い、人気ノンフィクションライターだ。それだけに、鋭い洞察と分析力をもって、なぜ、これほどまでに大量の熟女が風俗で働いているのか、その謎に切り込んでいる。
 登場するのは、住宅ローン返済のために奔走する人妻、格安店で生活費を稼ぐデリヘル歴10年以上のぽっちゃり主婦など。カネが欲しい、いわゆる“訳あり”は、理由がはっきりしているだけに納得できる。
 だが、一方で「子供が成人したから好きなことをしている」という、なぜカラダを売るのか、理由が分からない大阪・飛田新地のシングルマザーもいる。川崎・堀之内のソープで働く三十路の独身女性も、風俗以外で十分に食べていける資質をもちながら、あえて身を削っている。
 熟女たち各自の事情は、男には決して理解できないものもあり、結局、この国はどこかおかしくなってしまったという思いにたどり着く。女たちが抱える“心の闇”は、とてつもなく深い。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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