森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第162回 マイナス金利政策

掲載日時 2016年02月18日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年2月25日号

 先ごろ、日本銀行がついに日銀当座預金に0.1%の「マイナス金利」をかける決定に踏み切った。
 日本の銀行など預金取扱機関は、日本銀行に「当座預金」を持っている。銀行預金準備制度により、銀行は「民間から受け入れている預金等の一定比率(準備率と呼ぶ)以上の金額を日本銀行に預け入れること」を義務付けられている。
 この準備金の預け先が、日銀当座預金なのである。
 また、日本銀行の通貨発行は、現金紙幣の印刷に限らない。日本銀行は国内の銀行などから国債を買い取り、代金を「日銀当座預金残高を増やす」形で支払うことができる。現在の日本銀行が実施している量的緩和政策は、まさしく銀行からの国債買い取りを増やし、日銀当座預金を積み上げる政策になる。

 日銀当座預金の残高が増えれば、銀行預金準備制度の準備率が一定である以上、銀行は「より多額のおカネ」を民間企業や家計に貸し出すことが可能になる。すると、社会全体のおカネの量(マネーストック)が増加し、デフレ脱却につながるのではないかという見込みがあるわけだ。
 ところが、現実には量的緩和政策をもってしても、民間への貸し出しは十分には増えなかった。結果、日本のデフレ脱却は遠のき、日本銀行はインフレ目標2%の達成時期を2017年度に先送りすると同時に、当座預金に▲0.1%の金利を科す決定をしたのだ。

 日本銀行の量的緩和政策により、銀行(厳密には預金取扱機関)の日銀当座預金残高は膨れ上がっている。直近では、何と250兆円を超えてしまった。
 注意してほしいのだが、今回のマイナス金利政策により、250兆円の日銀当座預金に丸ごと「マイナス金利」がかけられるわけではない。日本銀行の金融政策決定会合のレポートによると、日銀当座預金を三段階に分割し、三つの金利が適用されることになる。

 具体的に書いておくと、
 (1)基礎残高(+0.1%)
 「量的・質的金融緩和」のもとで各金融機関が積み上げた既往の残高については従来の扱いを維持(これまで通り+0.1%の金利をつける)
 (2)マクロ加算残高(ゼロ%適用)
 所要準備額に相当する残高(準備預金制度に基づく当座預金残高のこと)や、貸出支援基金・被災地金融機関支援オペにより資金供給を受けている場合、その残高に対応する金額
 (3)政策金利残高(▲0.1%)
 各金融機関の当座預金残高のうち、(1)と(2)を上回る部分
 となる。

 お分かりだろうが、量的緩和政策により膨れ上がった部分(1)や、準備預金制度に基づく残高(2)にマイナス金利がかけられるわけではない。(3)の政策金利残高のみが対象となるが、現在はほとんどない。
 今後、金融機関が日銀当座預金に債権を「逃がそうとしたとき」に、▲0.1%の金利が適用されると書けば分かりやすいだろうか。
 ちなみに、金融機関が現金保有によりマイナス金利を逃れるべく、現金保有額が基準期間から大きく逸脱すると、その分の金額が(1)(2)から控除されてしまう。すなわち、金融機関が余計な現金を持っていると、事実上▲0.1%の金利が適用されるというわけである。

 さて、どうなるだろうか。
 日本銀行が量的緩和政策を継続すると同時に、日銀当座預金の一部に▲0.1%を適用するとなると、普通に考えて「日本国債が金融市場から尽き始める」ことが予想される。つまり、国債金利が下がる。
 実際、日本の長期金利(新規発行10年物国債金利)はマイナス金利導入発表直後、一時的に0.09%に低下し、史上最低を更新した。さらに2月1日には、何と0.05%にまで落ちてしまった。

 銀行側は国債を日銀に吸収され、日銀当座預金の一部にマイナス金利が科せられることになる。当然、これまで以上に「民間への貸し出し」を増やそうとはするだろう。
 とはいえ、いまだに日本には資金需要が十分にない。と言うよりも、デフレが継続し、実体経済が悪化している国では、経営者は金利がどうであろうとも設備投資を増やしたりはしない。理由は、簡単。もうからないためだ。
 となると、銀行は不動産関連への融資を増やしていかざるを得ないように思える。東京や大阪など、大都市の中心部では、不動産価格は上昇するだろうが、相変わらず実体経済への波及は限定的で、インフレ率は低迷を続けると予想する。

 もちろん、今回の日銀の決定は市場にそれなりのインパクトを与えたため、円安や株高が「短期間」進むかも知れない。とはいえ、実体経済へのおカネの投入、すなわち消費や投資を増やす形の政府の財政出動が不十分である以上、長期金利がひたすら低下していくという結果を招くだろう。
 長期金利は一時的に0.05%と史上最低を更新したが、近々にマイナスに突入したとしても、不思議でも何でもない。ちなみに、5年物国債はすでに手数料を含むとマイナス金利に突入しており、財務省は1月21日に5年債の個人向け窓口販売の募集を中止すると発表した。
 また、一部の銀行がマイナス金利の影響を緩和するため、大規模預金者(大企業など)からの手数料徴収を検討、あるいは個人に対しては、すでに預金金利の引き下げに走っている。マイナス金利政策の「ツケ」が、国民に押し付けられてしまうわけだ。

 歪んでいる。
 結局、問題はデフレによる「資金需要不足」(資金不足ではない)であることを政府が認識し、民間の資金需要を促す「実体経済の需要創出=財政出動」に乗り出さない限り、この歪んだ状況に終止符が打たれる日は来ないだろう。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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