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やくみつるの「シネマ小言主義」 ハリウッド版『トットチャンネル』! 『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

掲載日時 2016年07月29日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年8月4日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 ハリウッド版『トットチャンネル』! 『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

 誰もが知る不朽の名作『ローマの休日』。あの完璧なストーリー、ローマに行ったことがなくても行った気になる名所でのエピソード、シャレたエンディング、これらをいったい誰が最初に思い付き、どういう状況で書き起こしたのかなんて、考えたこともありませんでした。
 『ローマの休日』だけじゃなく、自分がこれまで見た映画の中で最高に面白いと思う『パピヨン』も、本作の主人公トランボの脚本だったとは! これほど幅広い作風で、映画史上に輝く名作を次々と生み出したにも関わらず、自らの名前では活動できない、そんな実話が詳しく描かれたこの映画、なかなかの大作です。

 トランボがその存在を消されたのは、米ソ冷戦下の1940年から50年代の「赤狩り」の時代です。
 その頃のことは断片的には知っていましたが、ハリウッドにも矛先が向けられ、多くの監督や脚本家たちが弾圧されていたことまでは知りませんでした。
 参院選で改憲推進派が多数となった日本だけでなく、今や世界中が政治の動向に敏感な時期ですよね。
 自らの信念を貫く反骨の人ほど、時の政治にどうしようもなく翻弄されるこの映画を見ていると、本物はいつも少数派の中にいること、その時はややこしい人と敬遠されても、後々に正しかったと評価されるのか…と思えてきます。
 そういう意味でもタイムリーだし、歴史アーカイブを見ているような面白さがこの映画にはあります。

 それだけでなく、劇中に名作映画の1シーンが挟み込まれていたり、ジョン・ウェインやカーク・ダグラスといったその時代のスターたちが多数登場する楽しさもある。現地の人が見ると、“自分らには分からないワクワクのポイントがまだまだあるのだろうな”と想像させられます。
 そのノリはまるで『トットチャンネル』。あの番組では記憶に残るテレビ黎明期のオールスターキャストが登場して、無性に懐かしくなりましたから。

 それにしても、この稀代の脚本家の話をまとめた本作品の脚本家の人、かなりのプレッシャーだったのでは…。脚本がつまらないとか言われたら、偉業が台なしですからね。
 映画の中でトランボがバスタブの中に浸かりながら裸でタイプライターを打ち続けたエピソードが印象的に挟まれていますが、自分も週に40本以上締め切りを抱えていた頃、風呂にノートとペンを持ち込み、ネタのアイデア出しをしていたことがあります。のぼせそうでしたが、意外とこれが集中できるんですよね。
Photo: Hilary Bronwyn Gayle

■『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』トランボ ハリウッドに最も嫌われた男
監督/ジェイ・ローチ 出演/ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、エル・ファニング、ヘレン・ミレン ほか 配給/東北新社 STAR CHANNEL MOVIES 7月22日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー。

■『恋愛手帖』で第13回アカデミー賞脚色賞にノミネートされるなど、ハリウッド黄金期に第一線で活躍していた脚本家のダルトン・トランボ。しかし、第二次世界大戦後の冷戦下に起きた赤狩りの標的はハリウッドにもおよび、トランボも投獄されてしまう。出所後、彼は偽名で執筆を続け、『ローマの休日』をはじめ数々の傑作を世に送り出しアカデミー賞を2度も受賞する。そんな逆境に立たされながらも信念を持って生きたトランボの映画への熱い思いを描き出す。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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