葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(90)

掲載日時 2016年01月31日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年2月4日号

◎快楽の1冊
『オン・ザ・ロード』 樋口明雄 中公文庫 780円(本体価格)

 過去、いくつもの文学ムーブメントが起きた。アメリカのビート・ジェネレーションもその一つである。1950年代半ばから60年代にかけて、まさしくビートに乗ったような文体で若者の無軌道、頽廃、暴力的な感情を書きつづる作家や詩人が、続々登場したのである。中でもジャック・ケルアックの存在はかなり大きい。1957年に原書刊行された『ON THE ROAD』は、最初『路上』のタイトルで邦訳された。歳月を経て2007年の新訳版では、原題に忠実に『オン・ザ・ロード』という邦題が付けられたのだった。
 主要人物が無軌道な旅を続けるこの小説は、ストーリーらしいストーリーがない不思議な作品だ。樋口明雄の『オン・ザ・ロード』は、もちろんケルアックの作品からタイトルをもらっている。当然、ロード・ノベルになっている。主人公は70歳の元刑事・村越だ。彼は東日本大震災で娘夫婦と孫を失った。妻も他界した。独りぼっちになり、生きている意味が分からなくなった。自殺しようかしまいか、迷いながら車で旅を続けている。
 そんなときに中国人の若い女性、張梨花と出会う。彼女は外国人研修生として長野の農家で働いていたが、あまりの過酷さに耐えられなくなり、逃げ出した。彼女の日本での悲惨な日々は、何らかの国際犯罪と関連しているようだ。果たして、彼女を抹殺しようとするヤクザが追ってくる。梨花のことを、失った孫娘のように感じた村越は、何としてでも守ろうと思う。
 追うヤクザ、逃げつつも応戦する村越が大活躍するストーリーは、見事なアクション・ロード・ノベルに仕上がっている。70歳の老境に入った男が必死に車を走らせ、敵と戦う姿が実に感動的なのである。ケルアックの小説は若者賛歌だったけれども、本作は高齢者賛歌のビートが炸裂する作品、と言っていいだろう
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 ブラック企業ならぬ『ブラック彼氏』(毎日新聞出版/1300円+税)。タイトルは、かなり衝撃的だ。
 ブラックの正体は、上場企業などに勤め、経済力もある高スペックなのに、結婚したらトンデモない欠陥を露呈する男のこと。交際中は優しく金払いもよかったのに、結婚後は暴言吐きまくりのモラハラ野郎に豹変し、しかもドケチ。
 子育てに夫の母親が介入してきても言いなりのマザコンや、浮気、DVなど問題行動ありの夫たちの実態と、そういう男を捕まえないための女性向け処方箋がつづられている。
 著者は明石家さんまが司会を務めるバラエティー『ホンマでっかTV』(フジテレビ系)に、コメンテーターとして出演している弁護士の堀井亜生さん。離婚をはじめとした男女問題の専門家だけに、豊富な事例を元にした解説は、なるほど「あるある」という内容だ。
 ただし、男の視点から読むと、ブラックと一方的に批判し、女性目線で論じ切ってしまうことに、違和感を持たざるを得ないだろう。妻に対する暴言で失敗するのは誰にでもあるし、妻にだって許しがたいモラハラ発言はある。結婚後にケチになるのは、当然のこと。嫁と姑の間に挟まって苦悩するのは、世の夫が直面する定番の問題だ。
 そもそもブラック彼氏は、バブル末期に話題となった“冬彦さん”の時代、いや、それ以前から存在する。外面やスペックに惹かれ、内面を見ずに結婚して後悔する女が、相変わらずゴマンといるということらしい。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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