菜乃花 2018年10月04日号

プロレス解体新書 ROUND12 〈想定外だったファン離れ〉 テリー・ファンク最初の引退試合

掲載日時 2016年07月31日 16時00分 [スポーツ] / 掲載号 2016年8月4日号

 日本のプロレス界において鬼門ともいえるのが、引退からの現役復帰アングルであろう。一つやり方を間違えれば、いかに人気のアイドルレスラーとて、ファンからの強い反発を受けることになる。

 スポーツ選手における引退からの現役復帰は、決して悪いイメージばかりではない。アメリカならバスケットボールのマイケル・ジョーダンにボクシングのジョージ・フォアマン。日本でもテニスのクルム伊達公子などは、全盛時のパフォーマンスには及ばずとも、いずれも“レジェンド復活”と好意的に捉える声は多かった。
 だが、日本のプロレス界においては多少事情が異なってくる。
 「引退から復帰のイメージを決定的に悪くしたのは、間違いなくFMW時代の大仁田厚で、これは『週刊プロレス』でも全否定されていた。1年にわたって引退ツアーをしておきながら2年も待たずに復帰とは、ファンに対する詐欺にも等しいという理屈です」(プロレス記者)

 いささか感情に走った批判ではあったが、しかし、多くのファンもこれに同調した。
 「特に日本のファンは『プロレスはインチキ、八百長だ』との世間の声に常にさらされてきたからか、選手や関係者の嘘やごまかしには極めてナイーブで、『面白ければいい』と開き直って楽しめないところがある。もともと好き嫌いの分かれる大仁田だから批判されたわけでもなく、それ以前には絶対的なアイドルレスラーだったテリー・ファンクですら、引退からの復帰で著しく人気を落とすことがありました」(同)

 テリーが最初に引退を口にしたのは1980年のことだった。
 「私のヒザは皆が思っている以上に状態が悪い。まだ動けるうちに身を引きたいので、3年後の誕生日に引退する」

 このときテリーは36歳。唐突な発言にファンもマスコミ関係者も驚かされた。とはいえテリーは、その後も一線級で活躍。'82年には世界最強タッグリーグで3年ぶりに優勝するなど、引退宣言もうやむやになりそうなムードだったが、前言通り'83年6月には『テリー・ファンクさよならシリーズ』が開催された。
 全日のレスラーグッズなどを扱うジャイアントサービスからは、引退記念の自伝書『さよなら日本の友達! オレは…アマリロの熱き風になる』も刊行されるなど、周到に準備された引退ロードであった。

 当初、引退の日に指定された6月30日のバースデーから遅れること2カ月、8月31日の日本武道館大会において正式な引退試合が開催される。兄ドリーとの最後の兄弟タッグで、対するはテキサス・ファンク一家出身のスタン・ハンセン&テリー・ゴディ。
 試合前のセレモニーで、長年の全日への功績をたたえて感謝状と盾が贈られると、テリーは社長のジャイアント馬場とガッチリ握手し、笑顔でファンの声援に応えた。

 そうして迎えたメーンイベント、おなじみ『スピニング・トーホールド』のテーマ曲に合わせて応援団が黄色のポンポンを振るう中、テリー&ドリーのザ・ファンクスが入場する。
 もちろん館内はテリーコール一色。しかし、ハンセン組が「テキサスの化石になれ!」と、いつもながらのブルファイトに出ると、兄弟分断で孤立したテリーは早々に額から出血。が、テキサス・ブロンコは死せず。
 右ジャブから反撃に転じると、伝家の宝刀スピニング・トーホールドこそカットされるが、ゴディのボディープレスを自爆させると、コーナー最上段から飛び掛かるようにしての回転エビ固めで3カウントを奪取した。
 自ら有終の美を飾ったテリーは、ファンに向けて涙ながらに「さよなら、フォーエバー」を連呼したのだった。

 だが、そんな感動のラストマッチからわずか1年後に、テリーは復帰することになる。ハンセン&ブロディの超獣コンビを相手取り孤軍奮闘するドリーの姿に、たまらずリングインという筋立てではあったのだが…。
 「ファンの反応は驚くほどに薄かった。引退の前からすでに『もうファンクスはオールドタイマーで、超獣コンビに叶わない』と見られていたこともあり、テリー参戦への期待感そのものが薄かったし、やはりそれ以上に早過ぎる引退撤回への違和感が強かったようです」(全日関係者)

 結局、テリーはかつての人気を取り戻すことなく、'85年に米国WWEと契約したのを機に、全日のリングを離れることになった。
 「最初の引退発表時にテリーが満身創痍であったことには違いなく、また、シルベスター・スタローン主演の映画『パラダイス・アレイ』に出演したことから、映画俳優への色気もあったようです。ただ、それを利用して引退アングルを組み、商売にしたのは全日側の意向。しかし、テリーの人気なら復帰もスムーズに受け入れられるとの読みは、完全にハズレてしまいました」(同)

 以後のテリーは引退と復帰を繰り返し、齢70を過ぎた現時点でも、正式な引退は表明されていない…。

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