葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(215)

掲載日時 2018年08月13日 12時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年8月16日号

◎快楽の1冊
『身体感覚で「論語」を読みなおす。-古代中国の文字から』 安田登 新潮文庫 550円(本体価格)

 男も40すぎれば改めて、じっくり本腰を入れて古典をちゃんと読んでおきたい。
 そう願ってはみたが本欄を受け持ってからというもの、基本的に1年以内に刊行された新刊しか扱えない条件のため、なかなか手が出ずにいたところ、そこへこの名著の文庫化は実に喜ばしい。
 古代中国の思想家・孔子とその弟子たちの言行を記録した「論語」だが、孔子の死後およそ500年ほどして編纂されただけに、孔子が生きていた西暦紀元前5世紀頃の段階ではまだ世に存在しなかった漢字が多々使われているという。
 驚くなかれそれは部首に「心」が入った文字で、「思」「恋」「恭」「惑」などがまさにブラックリスト入りと聞けば内心穏やかではいられない。では、「われ四十にして惑わず(不惑)」とは、孔子は言ってなかった可能性が出てくる…という導入部分だけで見事にスリリング。なるほど日本でももはや「ゐ」や「ゑ」を正しくどう発音するかなぞ、一般的にはチンプンカンプンなのに近いかもしれない。
 本職が能楽師の著者による、甲骨文・金文といった古代の象形文字=漢字の原型にまで遡り、慎重な推測と大胆な仮説を取り混ぜての太古「論語」の復元作業が極めて興味深い。学生時代に評論家の呉智英氏が主催する「論語」の読書会、“以費塾”に通った身としてはまさに学而篇冒頭の「学びて時にこれを習う、また説ばしからずや」(学而時習之、不亦説乎)を地で行く興奮が味わえた。
 教科書チックな理解だと「ものを教わって、後で復習する。何と楽しいことではないか」になるが違う気が。一度頭で学んだはずのことが体でしっくり実践できた時に勝る楽しみはない、と昔、得心した解釈を再納得させてくれる。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 うだるような猛暑続きのニッポン列島だが、そういう時はカラダの中からクールダウンさせたい。というワケでオススメしたい1冊が『にっぽん氷の図鑑Best50』(ぴあMOOK/税込842円)。かき氷のガイド本だ。
 かき氷といっても、オヤジ世代が幼少時の夏に食べた「氷いちご」「氷メロン」など、露天や駄菓子屋の代物ではない。現在話題のかき氷は、氷は水の名産地から取り寄せたもので、食感は“ガリガリ”というより“フワフワ”、果肉をふんだんに乗せ、シロップも特製というぜいたくなシロモノ。
 その分、価格もやや高値だが、一度クチにするとヤミツキになるという品ばかり。オヤジが考えるかき氷の概念を遥かに飛び越えた逸品が、1冊の本の中においしそうに並んでいるのである。
 例えば、マンゴーや白桃がこれでもかと氷の上に乗っていて、氷を崩していくと、さらに下からもフルーツが現れる。抹茶が大量に振りかけてあり、その苦味と氷本来の甘みが絶妙に絡まっている。他にもカラメルソースやきな粉のかき氷など多彩な品ぞろえ。人気の店は朝から整理券を配布し、その日の分が短時間で売り切れてしまうほどの大盛況だという。
 かき氷ファンを指した“ゴーラー”という言葉も出現するなど、灼熱地獄と化した日本の今や新たな風物詩といっていい。実際この本に載っている写真を見ただけでも、体感温度がやや下がった気になる。
 一度足を運びたくなる店が目白押しだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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