やくみつるの「シネマ小言主義」 「公然の秘密」を映画化する英国の懐の深さ『オフィシャル・シークレット』

エンタメ・2020/05/31 07:00 / 掲載号 2020年6月4日号
やくみつるの「シネマ小言主義」 「公然の秘密」を映画化する英国の懐の深さ『オフィシャル・シークレット』

Nick Wall (c)Official Secrets Holdings, LLC

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 2003年、英国の諜報機関で働く女性が、根拠もないまま、イラク戦争を始めようとする米国政府の機密情報をリークした事件を映画化した本作。

 当時のブッシュJr.政権は「イラクのサダム・フセインは大量破壊兵器を保有している」という嘘を世界中に喧伝し、世論を動かして開戦に踏み切ろうとしました。

 今となってはイラクに大量破壊兵器なんてなかったことは周知の事実ですが、当時の英国のブレア首相も米国に同調し、開戦に加担したことがリアルに描かれます。まさに、その開戦前夜、公務の秘密を守る法的義務違反を覚悟の上で、情報操作をしようとする米国の動きをマスコミに流し、戦争を始める政府に刃向かった人物がいたとは知りませんでした。

 社会派なテーマで、入り組んだ物語かと思いきや、1年以上に渡って起こったことを約2時間にすっきりとまとめてくれています。話の筋を見失いがちな自分にも、彼女の葛藤と覚悟が十分に伝わってきました。

 そして、そんなリーク情報を新聞に掲載すれば、政府から圧力がかかるのは目に見えているのに、力を尽くして裏を取りながらスクープとして取り上げたジャーナリストたちや、彼女を弁護することで、違法な戦争だったことを告発しようとした弁護士がいたことにも心を動かされます。

 すべて実際にあったこととはいえ、自国の恥部を映画にして世界に公開してしまうところに、イギリス映画界の懐の深さを感じます。

 日本の映画界も、森友問題とか加計問題とか、トップの重要機密が絡んでいると言われる事件を忖度なしに映画化してほしいですね。そっくり芸人のビスケッティ佐竹に、安倍首相を演じさせて…。

 さて、本作ではブッシュ大統領やブレア首相など、キーマンの実写映像が使われていますが、そこに当時の小泉首相の映像も入れてほしかった。真っ先に米国に賛同して、自衛隊による後方支援を決断しましたから。小泉元首相は今では原発撤廃や安倍政権批判を繰り返し、正義の味方みたいになっていますが、実は色々と無理を通してもいます。

 コロナ騒ぎで中止になったのですが、岡山市民文化大学という生涯学習センターで月1回行われている講演で、4月の講師がその小泉元首相の予定でした。ちなみに5月は自分の担当でしたが、これも延期に。

 自分のはともかく、小泉元首相の講演は聞いてみたかったのに残念でした。この映画の感想を元首相から頂いて、宣伝文句に使ったら面白いと思いますが、いかがでしょうか。

______画像提供元_:Nick Wall (c)Official Secrets Holdings, LLC
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■オフィシャル・シークレット
監督・脚本・製作総指揮/ギャヴィン・フッド 出演/キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード、レイフ・ファインズ 配給/東北新社 STAR CHANNEL MOVIES 近日公開。
■2003年、イラク戦争開戦前。英国の諜報機関であるGCHQ(英政府通信本部)で働くキャサリン・ガン(キーラ・ナイトレイ)は、アメリカの諜報機関・国家安全保障局からメールを受け取る。イラクへの攻撃を推し進めることを目的にした、違法な盗聴の要請が記されていたことに憤りを感じた彼女は、告発することを決意する。その後、イギリスのオブザーバー紙の記者マーティン・ブライト(マット・スミス)によってキャサリンのリークは記事化される。キャサリンは自分がリークしたことを名乗り出るが、告発も空しくイラク侵攻は開始され、彼女は起訴されてしまう…。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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