森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(207)

掲載日時 2018年06月16日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年6月21日号

◎快楽の1冊
『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』 畠山理仁 集英社 1600円(本体価格)

 「何が泡沫候補か! 馬鹿にするな!」
 あれは昭和の末の恐らく衆院選だったと思う。NHKで流れる政見放送で、自身へのマスコミの不当な扱いに業を煮やしカメラに向かって怒鳴り散らす愛国党総裁・赤尾敏の姿は、当時少年の筆者にとって怖さ半分ながらなぜか強烈にチャーミングにも見え心に突き刺さったものだ。雑民党の東郷健と双璧に。
 あるいは90年代の半ば頃まで、衆参両院はもとより都知事選はじめ地方自治体の選挙へも頻繁に出ていた、三井理峯という名の老婆をご記憶の向きが本誌読者の中でどれだけおありだろう。“夏休み中の学習は有害禁止”“鰯を食べると怒らない”“国立公園は暴力団の隠れ蓑”等、数々の謎に満ちた政策or告発を選挙公報に毛筆で直に並べた挙げ句、政見放送ではとある温泉旅館で「殺され」そうになった一件を延々と報告する…こうした面々を野次馬的な一有権者として筆者などついどうしても“人生の愉快犯”と見なしてただ楽しんでしまいがちだが、それは完全な色眼鏡だとするのが著者の立場だ。
 言うまでもなくあらゆる立候補者は300万円の供託金を用意できなければそもそも出馬もままならない(米・仏・独・伊の各国はその制度がなく、イギリスでも7万5000円程度。高いといわれる韓国すら日本の半額の150万円と聞くと少々たじろぐ)。それをクリアした上で、様々なリスクを背負いつつ選挙戦に挑む彼らの意識に何らかの「公」の精神が宿らぬはずはない、と分け隔てなく密着取材を重ねる著者の姿勢には脱帽のほかない。人間・マック赤坂との10年に及ぶ並走記録を軸に、選挙システムの矛盾や報道の無自覚な偏向ぶりを通じて民主主義の金属疲労度が浮き彫りとなる、開高健ノンフィクション賞受賞作。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 『リアル風俗嬢日記〜今日も元気にヌいています』(竹書房/1000円+税)は、“Ω子”と名乗る現役ヘルス嬢原作のコミックエッセイだ。左下の写真は第2巻で、第1巻も好評発売中である。
 Ω子さんはごくフツーの地味な女性だが、実はM性癖の持ち主。主従関係を結んでいた“ご主人様”からの指示で、調教の一環として店舗型ヘルスに勤務するハメに陥る。現在は“ご主人様”とは破局しているが、男性に依存するタイプのΩ子さんは「誰かとつながっていたい」と考え、今もヘルス勤めをやめられない。
 そんな彼女が風俗店で経験した様々な出来事がリアルに綴られている。
 最も困るのが業界用語でいうところの“ホンキョー”、つまり客から“本番を強制”されること。ヘルスは本番NGだが、意外にも強制してくる男は少なくないらしい。
 さらに本来Mの彼女だけに、勤務先の店はやはりSM系。客の嗜好によってSを演じなければならないケースに戸惑いを隠せなかったり、好みのタイプの客だと大してテクニックもないのに感じてしまったりと、微妙な女心が読み取れてかわいらしい。
 風俗嬢の読者からは「あるあるネタ」が満載のコミックとして好評を博しているというが、男からすると風俗で働く女性のホンネは耳が痛く、また客の身勝手な振る舞いがどこか自分自身を眺めているようで身に沁みてくる。
 男のワガママに付き合う、つくづく大変な仕事であると理解できるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー

エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(207)

Close

WJガール

▲ PAGE TOP