菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第184回 財政拡大路線への転換

掲載日時 2016年07月26日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年8月4日号

 与党が大勝した参議院選挙から二夜明けた7月12日。安倍晋三内閣総理大臣はデフレ脱却、経済の再生に向けた総合的な経済対策を、今7月中に策定するよう閣僚に指示した。経済対策の事業規模は10兆円を超え、財源としては財政投融資や建設国債の追加発行を検討するとのことである。

 財政投融資は、もちろんリニア新幹線の早期開業のためにJR東海に貸し付けられる。政府がJR東海に低金利(超低金利)で資金を貸し付け、大阪までの開業時期を現行の2045年(!)から、最大で2037年まで8年の前倒しを目指すとのことだ。
 もちろん、2045年に比べれば「前進」ではあるのだが、それでも東京-名古屋開通(2027年)の10年後である。東京-名古屋間開通から大阪延伸まで10年も掛かると、国内の民間投資が「東京・名古屋圏」に集中し(集中するだろう)、大阪を中心とする西日本経済は沈滞せざるを得ない。
 自民党の「超電導リニア鉄道に関する特別委員会」は、リニア新幹線の大阪延伸を2030年まで前倒しするべきと提言している。2030年であれば、東京-名古屋開通から3年後に大阪まで開業することになる。財政投融資という国費を投じるのであれば、政府には2030年「以前」に大阪までの開業を実現するべく、JR東海に働きかけてほしいと切に願う。

 また、建設国債を発行し、例えば北海道新幹線(札幌延伸)や北陸新幹線(大阪延伸)の前倒し整備をするとなると、これは「プライマリーバランス目標(PB目標)」について、少なくとも短期で無視しないわけにはいかない。ちなみに、今回の補正予算で建設国債を新規発行すると、何と「4年ぶり」のことになる。
 建設国債とは、公共投資の財源として発行される国債だ。すなわち、建設国債を発行しインフラ整備等を行うと、バランスシートの貸方に確かに「負債 建設国債」が計上されるが、同時に借方に「資産 インフラストラクチャー」が載るのである。
 特例公債(いわゆる「赤字国債」)の場合、借り入れたお金は社会保障等の「消費」として支出されるため、貸方に赤字国債が計上されたとき、借方には何も残らない。すなわち、借金「だけ」が増えるのだ。

 というわけで、プライマリーバランス(基礎的財政収支)で赤字国債を管理しようという発想は分かる。ところが、日本は「インフラ」という固定資産が残る建設国債までをも、プライマリーバランスに含めてしまっている。結果的に、「短期」のPB目標にこだわった安倍政権は、国家の基盤であるインフラへの投資を減らし、建設国債を3年間も発行しなかったのである。
 興味深いことに、6月2日に閣議決定された「骨太の方針2016(経済財政運営と改革の基本方針2016)」には、
 『2020年度(平成32年度)の基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標を堅持する』
 という文言はあるが、「骨太の方針2015」までは存在した短期のメルクマーク(指標、判断基準)は消え失せている。
 安倍政権はPB目標について「長期(2020年度)は維持、短期は無視」という形で「逃げを打つ」つもりなのであろう。ナンセンスなPB目標は「破棄」が間違いなく正しい。とはいえ、「長期は維持。短期は無視」の方が、「長期は維持。短期も維持」よりははるかにマシであることも、また確かである。

 ところで、リニア新幹線全線開業前倒しや、整備新幹線の早期整備に、手つかずの新幹線基本計画(奥羽新幹線、羽越新幹線、山陰新幹線、四国新幹線など)の整備計画化が加われば、土木・建設業界にとっては待ちに待った「長期の需要見込み」となる。
 政府が公共投資を拡大しようとすると、かたくななアンチ公共投資派が、
 「人手不足で、供給制約があるから、公共投資の拡大はできない」
 などと主張してくるわけだが、本当にわが国が「供給制約」とやらで公共投資を増やせないとなると、これは大変な問題だ。何しろ、わが国は世界屈指の自然災害大国なのである。

 日本の土木・建設産業の供給能力は、長引く公共投資削減路線の影響で毀損してしまった。これが、どれほど国民の防災安全保障を脅かしていることか。
 日本が自然災害大国である以上、土木・建設産業の供給能力の復活と生産性向上は、「国家存亡」に関る重要課題なのである。そして、現実に土木・建設産業の供給能力を復興するためには、「長期の需要見込み」が必要なのだ。長期的に需要が期待できて初めて、土木・建設産業は本格的に人手を確保し始め、生産性向上のための投資も拡大していくことになるだろう。
 安倍政権は、リニア新幹線や整備新幹線以外にも、訪日客向けクルーズ船を受け入れられる港湾施設の整備、農林水産物や日本の食材を海外に売り込むための輸出対応型施設を全国に建設するなど、幅広いインフラ整備を推進するとのことである。

 問題は経済対策の「規模」と「質」と「継続性」だ。
 安倍総理は「10兆円超」という言葉を使っているが、現実のわが国のデフレギャップは「最大概念の潜在GDP」で計算すると、20兆円近いと思われる。経済対策の規模について、“10兆からどこまで増やせるか”が第一のポイントである。
 次に、土木・建設産業が本気で供給能力の拡大に踏み切れるだけの「質」、すなわち“長期プロジェクト系の対策をどこまで押し込めるか”である。財務省が好む「給付金」系の財政出動をどれだけ拡大しても、デフレから脱却するに十分な「脱出速度」は得られない。当然、給付金配布で土木・建設産業の力が復活し、わが国の防災安全保障が強化されるなどということもあり得ない。
 最後に、'16年度に組んだ経済対策を“'17年度以降も継続できるか否か”だ。'16年度にまともな予算を組んだとしても、'17年度以降に緊縮路線に逆戻りしてしまえば、またもや元のもくあみだ。日本は今度こそ確実に、再デフレ化してしまう。

 いずれにせよ、安倍政権の「かじの切り直し」を受け、マスコミでは、
 「国の借金で破綻する」
 「公共投資は無駄」
 といった虚偽のプロパガンダの大合唱が始まるだろう。この手のプロパガンダに対抗しつつ、三つのポイントを満たす補正予算を組めるか。日本経済にとって、決定的な分岐点が訪れようとしている。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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