葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(96)

掲載日時 2016年03月13日 20時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年3月17日号

◎快楽の1冊
『拳銃伝説』 大橋義輝 共栄書房 1500円(本体価格)

 数奇な運命、というのは確かにあるようだ。あまり運命なるものを信じすぎて生きるのは、他力本願につながるので、望ましいものではない。いっそのこと、運命や必然などは決して存在しない、と思い切ってしまったほうが、積極的な人生を生み出すのではあるまいか。しかしながら、やはり数奇な運命というものもあるように思える。思い掛けない出会いや出来事の連続、ツキや僥倖が人を劇的に不幸にしたり、幸福にしたりもする。
 本書『拳銃伝説』は、1丁の銃がさまざまな人物や歴史的事象を結び付けた不可思議さを追っていくノンフィクションである。昭和5年(1930年)11月、ときの総理大臣・濱口雄幸が東京駅のホームで銃で撃たれた。右翼団体に所属している青年・佐郷屋留雄が暗殺を企てたのである。彼は即刻逮捕され、濱口は生還できた。しかし、約1年後に死んでしまう。死因を明らかにするために遺体は鑑定されることになる。駅での襲撃との因果関係がはっきりせず、佐郷屋は殺人罪ではなく、殺人未遂罪を下された。
 本書の著者の目の付けどころで秀逸なのが、佐郷屋が使ったモーゼル式8連発拳銃に着目した点だ。ルポルタージュ作家である著者は持ち前の取材力を駆使して、この銃がどこで生まれ、誰に行き渡っていったのか、過程を丹念に調べていく。もちろん、文献を調べるだけでなく、日本各地に赴き、当時のことを知る人たち(多くは高齢者)に直接会い、話を聞くのである。そこで浮かび上がってくるのは、身分が立派な鑑定医の裏の顔、帝銀事件、スパイ容疑で逮捕された男装の麗人・川島芳子などなどで、まさしく1丁の拳銃が複数の人たちの数奇な運命を招いたように感じられるのだ。1個の物が人の心を左右することもあるだろう。奇妙なフェティシズムが社会を動かすこともある。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 「エロ本は売れない」「エロ本は終わった」−−すでに2000年ごろから、出版業界でエロ本は“斜陽産業”と見られてきた。そして、現在は“絶滅危惧種”となり、瀕死の状態に置かれている。
 1980年代、自動販売機で売られていた“自販機本”や、人気AV女優のヌードグラビアで大好評を博した『べっぴん』(英知出版)などを中心に、エロ本は黄金期を迎えていた。それが、なぜ、ここまで衰退してしまったのかを、出版を担った当時のスタッフやモデルたちのへの取材を通して解き明かしたのが、『エロ本黄金時代』(河出書房新社/本橋信宏・東良美季共著/1700円+税)である。
 衰退の理由は、ひと口でいえば、エロ本が「面白くなくなったから」と、本書は指摘している。確かにエロ本は、当時、人気絶頂だった女性歌手Y・Mが出したゴミを漁って掲載してしまうなど、ただの“オカズ”としてだけではない、反社会的なネタをこれでもかと詰め込んでいて、そこが面白かったわけである。
 ところが、売れたことによってメジャーになり、メジャーになったがゆえ、つまらなくなった。マイナーな深夜番組で毒舌を吐いて人気を集めたタレントが、ゴールデンタイムに抜擢された途端におとなしくなり、個性を失ってしまうのと同じだろう。
 本書には、懐かしのデカパイ女優・中村京子さんのインタビューも登場する。現在の女性にはない、どこか古めかしい個性が、黄金期のエロ本を代表しているかのようだった。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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