菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(85)

掲載日時 2015年12月17日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年12月24日号

◎快楽の1冊
『自撮者たち』 松永天馬 早川書房1600円(本体価格)

 文筆を仕事にしている者にとって、目のつけどころは命の根源だ。考えてみると、文章の巧みさを仕事の上で要求されることは珍しくない。会議でのレジュメ、企画書などなど。しかし、これはメーンの仕事をより良い方向へ持っていくための文章だ。趣味の同人誌やネット上のブログのための文を書いている人の場合、ギャラなり代金なりをもらっていなければ仕事で書いているとは言えない。小説、詩、評論、ノンフィクションなど、ともかく書いたものに対価が支払われたとき、その文章はメーンの仕事と言えるのだ。
 本書の作者は、もともとテクノポップ・サウンドを基調としたバンド、アーバンギャルドのリーダーである。すべての楽曲の作詞を手掛けるヴォーカリストで、詩の朗読も行う。言葉の持つ美と力を身上にしたミュージシャンが、まさしく言葉のみで勝負した初の作品集が本書なのだ。
 最初に、目のつけどころ、と書いた。収められている作品は短篇小説と詩だが、いずれにせよ1冊全体のコンセプトは明確だ。目のつけどころを一定に保ち、ふらついてはいないのだ。今やクール・ジャパンという呼び名は世界で知られており、上質の漫画、アニメ、アイドルのパフォーマンス、つまりはオタク文化が市民権を得たようだが、振り返ればこの文化は非常に内向的でダークなものを含んでいたのだった。そのことを決して忘れない、という作者の姿勢こそ、すなわちコンセプトなのだ。
 タイトルから分かる通り、スマホでアイドルを真似して自分を撮影し、ネットで公開する十代の女の子たちが、目立ったキャラクターとして登場する。少女に欲情する男よりも、自分を撮影せずにはおれない少女たちの悲痛な寂しさが、クローズアップされているわけだ。クール・ジャパンの背後にある暗黒を描く手腕に戦慄を覚える。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 二見書房が刊行している官能小説シリーズ・マドンナメイト文庫から、今どきの時世を反映した気になる新作が出ていた。
 『実録ドキュメント 撮られてしまった人妻たち』(性実話研究会編/648円+税)である。
 タイトルからも分かる通り、不倫セックスの痴態を男が撮ることを容認してしまった、人妻たちの告白手記だ。
 カメラマン志望の年下男に「モデルになってください」と頼まれ、服を脱ぎ、性行為にまで及んでしまった三十路の女。
 元上司とのハメ撮りプレイに夢中になった揚げ句、撮影された写真をネットに投稿するのが趣味になった…など、見境いないというか、無防備というか、とにかく自分のエロ写真に年がいもなく酔ってしまった、奥さまたちのあきれた行状がつづられている。
 ネットには、人妻の画像が溢れ返っている。どういう素性の女かは不明だが、明らかに本物の素人妻と思われるモノも数多い。撮影した男が、女に許可なく勝手に投稿してしまったものが大半だろう。
 ひとたびネットに流れた画像は無断転載を繰り返され、もはや取り返しがつかない。最近話題となっている、リベンジポルノを目的としたネット投稿もあるだろう。
 そうしたリスクも省みず、裸体撮影を簡単に許してしまう人妻が、いかに多いことかが分かる書籍だ。
 もし、夫にバレたら、火遊びの代償はあまりにも大きい。まさにネット時代の人妻不倫を象徴する1冊である。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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