菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第175回 財政破綻論のデマゴギー

掲載日時 2016年05月25日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年6月2日号

 安倍政権は来るべき伊勢志摩サミットにおいて、先進7カ国が協調して「財政出動」に踏み出すことを目指している。2014年度以降、過去に例を見ないレベルの「超・緊縮財政」を強行した安倍政権にしては、珍しくまともな動きだ。
 安倍総理は5月上旬、欧州を行脚し、各国首脳に「財政出動」の協調を訴えた。結果は、フランス、イタリアからは歓迎され、予想通りドイツ、イギリスからは歓迎されないというものであった。微妙な情勢である。

 ドイツのメルケル首相は、財政出動に対し明確な拒否をしたわけではないが、
 「私は財政出動のフロントランナーではない」
 と、何というか「嫌悪感」がにじみ出た印象の反応を見せ、議論はサミットに持ち越されることになった。

 3月にアメリカのノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授が来日し、安倍総理と会合を持った。クルーグマン教授の議事録によると、総理は会合の場で5月のドイツ訪問に触れ、
 「さらなる財政出動について、協調した行動を起こすべく(ドイツを)説得しなくてはならない。何かアイデアはないだろうか?」
 と、質問した。総理の質問に対し、クルーグマン教授は、
 「それは難しい」
 と回答したわけだが、やはりドイツは簡単には同意しなかった。
 現代の世界は、ドイツに限らず「財政破綻論」あるいは「財政均衡主義」という呪縛に各国政府が縛られ、正しい政策を打てない状況にある。

 くどいほどに強調しておきたいのだが、政府が自国通貨建ての負債の返済不能になる可能性は「ゼロ」である。理由は、政府は永続する存在であり、さらに通貨発行権という強大な権力を保持しているためだ。
 読者の多くは、
 「国債(政府の負債)は税金で返済しなければならない」
 という間違った認識を持っているのではないだろうか。個人とは異なり、永続性があり、通貨発行権を保有する日本政府は、そもそも借金を返済する必要はない。もちろん、税金で返済する必要もない(しても構わないが)。

 政府の負債の返済方法は、主に三つある。
(1)税金で返済
(2)未来永劫、借り換えを続ける
(3)日本銀行に通貨を発行させ、買い取らせる
 これらをインフレ率や金利、景気の状況を見ながら使い分ければ済む話なのだ。

 政府の負債について「税金で返さなければならない」などと言ってのける人は、個人を対象とした予算制約式を、通貨発行権を持つ政府に適用している愚か者である。
 個人の場合、何しろ通貨発行権を持たず、しかも寿命がある。「個人は生涯に稼ぐ以上の借金はできない。個人は稼ぐ所得で借金を返済しなければならない」という予算制約式に、一定の合理性はある。だが、政府は違うのだ。

 ところで、ドイツはユーロ加盟国である。ユーロ加盟国は金融政策をECB(欧州中央銀行)に委譲してしまっているため、各国政府は通貨発行権を持たない。とはいえ、独自通貨を持つ日本、アメリカ、イギリスは違う。
 独自通貨国である日本が、日本円建ての国債の「財政破綻(債務不履行)」になる可能性はない。そして、日本国債は100%日本円建てなのである。

 しかも、現在は日本銀行が量的緩和政策を継続し、日本円を発行し、市中銀行から国債を買い取っている。結果、政府の負債(国の借金ではない)は、ピークの2012年9月と比較し、実質的に130兆円超も減ってしまった。
 中央政府の国債・財投債・国庫短期証券に限れば、政府が実質的に返済しなければならない負債は600兆円である。残りの331兆円については、日銀が保有しているため、政府は返済の必要はない(返済しても構わないが)。

 国内のマスコミは、この「事実」を無視し、抽象的な表現で財政問題を煽る。例えば、信濃毎日新聞は5月9日の社説「財政出動要請 改革進める覚悟どこに」において、
 『1千兆円を超す借金を抱える日本はその筆頭だ。マイナス金利の導入で、国債を発行しやすい環境にある。それに甘えて国債を乱発すれば、将来へのつけはさらに膨らむことになる。
 経済対策を目的とした財政出動は本来、規模や内容を慎重に検討しなければならない。従来型のばらまき政策では効果は一時的だ。日本の財政に対する国際的な信認も低下しかねない。経済成長と財政再建の両立策を示せないまま、日本が各国に財政出動の必要性を訴えても説得力に乏しい』
 と、安倍政権を批判していた。
 「1千兆円を超す借金を抱える日本」「将来へのつけはさらに膨らむ」「従来型のばらまき政策」「財政に対する国際的な信認も低下」−−。まさに、典型的なプロパガンダ用語だ。思考停止に陥り、言葉の定義を真剣に考えない人は、この手のレベルが低いプロパガンダにコロリと騙されてしまう。

 1千兆円を超す借金を抱える日本、ではなく、1千兆円を超す借金を抱える日本政府、が正しい。先に述べたように、日銀が国債を買い取り、借金を帳消しにしているため、実質的には600兆円といったところだ。
 また、将来へのつけ、というならば、デフレが継続し、供給能力が削り取られ、モノやサービスを生産できない発展途上国と化した日本を受け渡す方が、よほど「将来へのつけが膨らむ」に該当する。従来型のばらまき政策とは、公共投資を意味しているのだろうが、そもそもわが国は1996年に45兆円だった公共投資を、20兆円にまで減らしてしまった愚かな国なのだ。結果的に、国民の生命さえも危険にさらされていると言える。
 さらに、財政に対する国際的な信認とやらが何を意味するのか不明だが、国債の信用度(デフォルトの確率が低い)というのであれば、金利以外に見るものはない。世界で2番目(1番目はスイス)に低い超々低金利で国債を発行しているわが国は、むしろ財政の信任があり過ぎて困っている。

 信濃毎日新聞の社説が典型だが、この手の財政破綻論のデマゴギーを容赦なく糾弾し、排除していかなければ、わが国がデフレから脱却し、国民が豊かになる経済を取り戻す日は訪れない。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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