葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第235回 仏マクロン大統領のグローバリズム

掲載日時 2017年09月02日 14時00分 [政治] / 掲載号 2017年9月7日号

 2017年4、5月の大統領選挙において、反グローバル派が左右に分裂した結果(ルペン氏とメランション氏)、グローバル派が相変わらず政権を握っているフランスでは、マクロン大統領の支持率が早くも急落している。人気失速の背景には、緊縮財政の強行と、マクロン大統領の権威主義的な振る舞いがあるとされる。
 8月3日に仏メディアが伝えた世論調査では、マクロン大統領の支持率は何と36%。7月から7ポイント減り、不支持が49%で支持を上回った。意外だろうが、マクロン大統領の支持率は、就任から同時期の比較において、人気低迷に悩まされたオランド前大統領をも下回っている。

 マクロン大統領の「前進」は、6月18日の国民議会選挙で、議席数577のうち、350を獲得、過半数を得た。ところが、国民議会選挙後、閣僚の辞任が相次ぎ、さらに7月19日にはフランス軍制服組のトップであるドビリエ統合参謀総長までもが辞任。ドビリエ統合参謀総長はフランス政府の防衛予算の削減に抗議し、
 「現在の環境下では、フランスやフランス国民の保護に必要な防衛力をもはや保証できない」
 と、表明。
 国防予算のみならずマクロン政権は財政赤字対GDP比を3%以内に収めるべく、約45億ユーロ(約5900億円)の歳出削減を宣言した。公共事業、住宅補助など各種の削減に乗り出し、影響を受けるフランス国民の怒りを買っている。なぜ、フランス政府が緊縮財政路線を採っているのかといえば、グローバリズムの国際協定たるEU(欧州連合)の規定で、財政赤字は対GDP比3%に収めることになっているためだ。

 ちなみに、日本の緊縮財政の始まりとなった'97年11月の財政構造改革法においても、「国及び地方公共団体の財政赤字額をGDPの3%以内にすること」が定められていた(第四条)。なぜ、緊縮財政主義者は財政赤字の許容額を対GDP比「3%」に設定したがるのだろうか。理由がさっぱり分からない。
 それ以前に、財政赤字とはデフレや不景気のときに拡大し、インフレ率が高い時期は縮小するなど、機動的に変更するべきだ。特に、デフレという需要不足であるにも関わらず、財政赤字を対GDP比3%といった形で抑制されてしまうと、デフレ脱却に必要な有効需要の創出が果たせない。結果的に、デフレは延々と続き、国民はひたすら貧困化していく羽目になる(現代の日本が、まさにそうだ)。

 ところで、マクロン政権がフランスの「労働規制の緩和」に乗り出そうとしていることもまた、フランスの労働者階級のひんしゅくを買っている。緊縮財政+労働規制緩和という政策パッケージこそが、マクロン大統領の支持率急落の主因なのだ。
 フランスの失業率は相変わらず10%前後で高止まりしている。その理由について、巷のエコノミストたちは例により「労働規制」が強固であることを上げている。'16年時点の雇用者に占めるパートタイム労働者の割合(パートタイム比率)は、ドイツが26.7%、イギリスが25.2%に対し、フランスは18.2%。法定最低賃金は、ドイツが8.84ユーロ、イギリスが8.6ユーロ程度であるのに対し、フランスは9.76ユーロ。
 確かに、フランスの労働規制は英独両国よりも強固である。フランスの労働者は、英独に比べて守られている。もちろん、高失業率は問題だ。とはいえ、フランスのインフレ率は'17年7月のデータで対前年比+0.8%と、1%を割り込んでいる。さらに、国債金利(長期金利)は0.738%と、日独両国同様に1%未満なのだ。

 すなわち、政府が国債を発行し、需要を創出すれば、高失業率の解消は可能なのである。ところが、やらない。いや、できない。
 フランスがEUやユーロに加盟している限り、「低インフレ率、低国債金利」という資源(リソース)を、雇用改善のために国民経済に投じることは不可能だ。EUは財政赤字の拡大を禁じており、ユーロは中央銀行による国債買い取りを不可能とする。

 政府が金融・財政政策による需要創出に「国際協定」により踏み出せない以上、高失業率の改善のためには、
 「労働規制を緩和し、労働者の処遇を落とし、国際的な価格競争力を回復する」道以外には存在しない、という話になってしまうわけだ。

 逆に言えば、フランスで“企業の利益”を拡大する労働規制緩和を推進するためには、高失業率と緊縮財政が“必須”なのである。EUが緊縮財政を強要するからこそ、フランスでは大手企業やグローバル投資家が望む労働規制緩和が正当性を帯びる。
 フランスが労働規制の緩和を実施すると、企業は人件費をカットしやすくなる。すると、特にグローバルに事業を展開している大手企業の純利益は膨らむだろう。企業の純利益が増えれば、そこから配当金の支払いを受けるグローバル株主が利を得る。さらに企業が純利益で自社株買いを増やすと、株価が上昇することで、やはりグローバル株主がもうかる。

 労働規制の緩和は、多数派を占めるその国の労働者階級の反発を買う。さらに政府が財政拡大による雇用改善策に乗り出せば、失業率は下がる。すると、労働規制緩和の説得力が喪失してしまう。
 フランスの労働規制緩和という構造改革を推進するためには、緊縮財政が不可欠なのだ。

 フランスの事例からも、グローバリズムは規制緩和、自由貿易、そして緊縮財政が「トリニティ(三位一体)」となっていることが理解できる。もっとも、グローバリズムのトリニティを推進すると、国民の支持を失い、支持率が下がる。だからこそ、グローバリズムを推進する政治家の多くが「保守政治家」を装い、
 「国家、国民のために尽くします! わが国を外国から守ります!」
 と、ナショナリズム“もどき”を叫び、国民の支持をつなぎ留めつつ、グローバリズムにより国民の生活や豊かさを破壊しようとするわけだ。

 現在の日本とフランスの政治状況は、気味が悪いほどに似ている。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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