菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第181回 日本銀行の責任転嫁

掲載日時 2016年07月08日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年7月14日号

 今では覚えている人が少数派のような気がするが、日本銀行は黒田東彦氏が総裁に着任した2013年春の時点で、
 「2年間でインフレ率を2%にする」
 と、いわゆるインフレ目標を掲げた。
 インフレ目標2%の宣言からすでに3年が経過したわけだが、日銀のインフレ率の指標であるコアCPI(消費者物価指数から価格変動の大きい生鮮食品を除いた指標)は、直近の数値で何と▲0.3%。日銀は4月の金融政策決定会合で、インフレ目標達成時期を「2017年度中」に先送りしたが、もはや誰も信じてはいまい。

 黒田日銀総裁は6月20日、慶応大学で講演し、2%のインフレ目標について、
 「2年程度での実現はできなかった」
 と語り、期限を示した理由について、
 「5年先なのか、10年先なのか、時期を定めないと実現に向けた政策が決まらない」
 と説明。2%のインフレ目標について、「政策を決めるために時期を明示した」にすぎない事実を明らかにした。

 一体、「インフレ目標」設定時のあの熱狂は何だったのだ。という話だが、そもそも政府が緊縮財政を推進している反対側で、中央銀行がどれだけ金融緩和を拡大したところで、デフレ脱却を果たせるはずがない。
 本連載で繰り返してきたが、デフレーションとは「総需要の不足」という経済現象だ。総需要とは、具体的には消費と投資。細かい話をすると、民間と政府の消費、設備投資、住宅投資、公共投資、そして純輸出の総計こそが「総需要」なのである。

 消費や投資とは、モノやサービスを「買う」ことを意味する。デフレーションとは、バブル崩壊後に国民が借金返済と銀行預金を増やし、消費や投資が減ることで発生する。厳密には、バブル崩壊後と政府の緊縮財政(増税、政府支出削減)が重なることで、国民のモノやサービスの購入が激減することで起きるのだ。
 デフレーションとは総需要(消費+投資)の不足である。国民がお金を使わないことが合理的なデフレ期に総需要の不足を解消するためには、政府が財政を拡大するしかない。それにもかかわらず安倍政権はデフレ対策を日本銀行に丸投げし、自らは緊縮財政路線をまい進。'14年4月の消費税増税で民間の消費を減少させ、さらに自らも消費や投資を削った。

 政府が緊縮財政という「デフレ化政策」を推進する反対側で、日銀は銀行から国債を買い取る量的緩和を続けた。結果、日銀当座預金残高は'13年3月の58兆円から、'16年3月には275兆円にまで膨れ上がった。信じ難い話だが、日銀は'13年春からの3年間で、200兆円以上もの「日本円」を発行したのだ。
 ところが、直近のインフレ率は▲0.35。当たり前だ。日銀が購入しているのは「国債」であり、モノでもサービスでもない。政府がモノやサービスの購入を減らす政策を打ち続けている状況で、日銀が国債を買い取り続けたところで物価が上がるはずがない。物価とは、モノやサービスの価格そのものだ。物価とは、モノやサービスが購入されない限り上昇しないのである。
 というわけで、インフレ目標2%はいつまでたっても達成できず、追い詰められた日本銀行は日銀当座預金残高の一部に▲0.1%の金利をかける、いわゆるマイナス金利政策を採用。政府からデフレ対策を丸投げされた日銀が、今度は責任を国内の市中銀行に転嫁した形になる。

 そもそも、日本政府や日本銀行、それに一部の「識者」が理解していないと思うのは、日本国内の各銀行は貸し渋りや貸しはがしをしているわけでも何でもないという事実だ。現在、各銀行の貸出態度は、極めて緩和されている。分かりやすく書くと、お金を貸そうとしている。
 銀行の貸出態度は、日本銀行が集計する貸出態度DIを見れば分かる。貸出態度DIとは、銀行の企業に対する資金の貸出態度について、「1、緩い」、「2、さほど厳しくない」、「3、厳しい」のいずれであるか、アンケート調査を行ったものだ。
 ここで貸出態度DIが緩いとは、「銀行が企業にお金を貸したがっている」ことを意味する。

 驚くなかれ。現在の銀行の貸出態度は、大企業や中堅企業はもちろんのこと、中小企業に対してすら極めて緩くなっているのだ。中小企業に対する貸出態度DIが「20」に達したのは、何とバブル最盛期の1989年以来のことである。
 すなわち、現在の銀行は大企業、中堅企業はもちろんのこと、中小企業に対してすら「お金を貸したがっている」というのが真実なのだ。
 もちろん、個別の案件を見れば、銀行側が貸し渋りをしているケースもある。ここで問題にしているのは国民経済という「マクロ」であり、ミクロの事例ではない。
 貸出態度DIがバブル期並みに「緩い」ということは、日本銀行がこれ以上の金融緩和を推進しても「無駄」という話になる。特にマイナス金利政策の拡大は、銀行を追い詰めるだけだ。

 マイナス金利政策は、日銀や政府が負うべき責任を銀行に丸投げしたにすぎない。問題は「企業が金を借りない」ことであり、「銀行が金を貸さない」ではないのだ。
 それにもかかわらず、日本国内では相変わらず「政府の国債発行と財政出動」という、唯一の解答から目を背け、
 「マイナスの金利という状況なのに金を貸さない銀行が悪い!」
 などと無茶な主張を展開する人々が少なくない。彼らは、銀行の貸出態度DIが「バブル期」並みに緩くなっているという現実を、いかに説明するのだろうか。

 いずれにせよ、わが国では次から次へと「国債発行+財政出動」を否定するレトリックが出現する。この種のレトリックを一つ一つ、しつこくしつこく、つぶしていかなければ、日本のデフレ脱却の日は遠のくばかりだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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