菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(133)

掲載日時 2016年12月10日 16時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年12月15日号

◎快楽の1冊
『悪玉』 鳴海章 KADOKAWA 1900円(本体価格)

 警察小説とギャンブル小説の合体、それが本作の大きな魅力だ。ハードボイルド系ミステリーでギャンブルが描かれるのは珍しいことではない。しかし、本作の場合、その描き方が誠に詳細で、二つのジャンルがまさしく合体したように感じられるのだ。競馬であれ麻雀であれ、賭け事には日常の退屈さを忘れさせる刺激がある。ただ、身の破滅を招く可能性とも不可分だ。のめり込み過ぎ、借金までしてギャンブルに興じる人は数限りなくいる。負け続け、返済できなくなり取り立て屋に殺される、といったエピソードはハードボイルド系ミステリーの定番と言っていい。
 本書の主人公・住田航は静岡県内の所轄である温海署に勤めている。組織暴力団担当の30歳だ。本心では今の部署から異動したく思っている。決してコワモテではない学究肌の男だ。そんな彼が県警から異動してきた國貞智宏とコンビになって捜査するよう命じられる。かなり年上の先輩だが、アロハシャツを着て長髪をポニーテールにしている姿はインパクトが強い。一貫して暴力団担当を歩んできた。裏社会の人脈に通じているこの男に住田は導かれ、教えを受けていく。
 老人介護施設の奥でひそかに続けられてきた、闇カジノの摘発を目指すのが2人のメーンの仕事となる。ゆえにギャンブル、主にバカラを客たちが行うシーンが頻繁に出てくるのだが、とにかく緻密で詳細な描写だ。読みながら、まるで自分も本当にバカラをやっているような気がしてくる。
 前述したようにギャンブルには日常から逸脱した破滅性が伴っている。描写が濃くなればなるほど闇カジノの実態が浮かび上がり、2人の刑事がいかに危険な裏社会に挑んでいるか、サスペンス感が高まってくるのだ。ここまでギャンブルと犯罪捜査、双方の危険な香りをミックスさせた小説はなかなかないだろう。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 異色の性風俗案内本『飛田新地の人々 関西新地完全ガイド』(鹿砦社/1200円+税)は、昭和の遊郭の匂いを残す大阪・飛田や松島をはじめ、11カ所の“新地”を取り上げている。各所の地図や、裏風俗本には珍しくカラー写真も豊富に掲載されており、ディープな地区の探索&潜入気分を楽しめる。
 その一方で、「飛田今昔物語」と題した新地のヒストリーや裏舞台をテーマとした章では、ここで働く女性たちの素顔やスカウト事情を、「新地顧客列伝」では常連客の破天荒なエピソードを紹介しており、ちょっとした人間ドラマが味わえるところも面白い。
 そして、最後の章では「開業手続きマニュアル」…つまり新地で新規出店する際に留意すべき法律や注意事項を網羅。
 新地に軒を連ねる店は、表向きは“料亭”という体裁をとっているらしいのだが、では、なぜ料亭で性風俗的なサービスを提供することができるか、そのカラクリがつづられている。
 新地の店で何が行われているかは、男なら誰でも知っている。だが、違法でありながらも、今日まで生き残ってきた。その理由は新地に住む人々のしぶとさ、したたかさ、たくましさにあるのではないかと、本書を読むと思えてならない。
 また、東京の裏風俗エリアがことごとく壊滅していったのを思うと、関西新地には昭和のユルい、おおらかな気風が、今なお残っているようにも感じる。東日本に住む人に向けた、知られざる関西街歩きガイドともいえるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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