森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 年金は75歳から?

政治・2014/05/26 20:00 / 掲載号 2014年6月5日号

 田村憲久厚生労働大臣が5月11日のNHKの番組で、年金支給開始年齢を75歳に繰り延べる可能性に触れた。ただし、田村大臣の発言は、正確に言うと、「与党から75歳まで選択制で広げるという案が出されている。選択制というのは一つの提案と認識している」と述べただけだ。支給開始年齢を一律に引き上げる案について田村大臣は、「国民の反発が非常に大きい」として、遠回しに否定した。
 選択制とはいえ、年金支給開始年齢を遅らせる案を与党が出してきたのは、将来の年金支給開始年齢引き上げに向けての布石だろう。年金は、5年に一度、新しい将来人口推計に基づいて財政再計算を行い、制度設計の見直しをすることになっている。今年がその年にあたるので、政府としてはさまざまな改革のアドバルーンをあげて、国民の反応をみようということなのだ。

 高齢化の進展で厳しさを増す年金財政を救う方法は、三つしかない。(1)保険料の引き上げ、(2)給付水準の引き下げ、そして(3)保険料納付期間の延長と支給開始年齢の繰り延べだ。
 保険料の引き上げは、すでに10年前の年金制度改革で、厚生年金の保険料率を毎年0.354%ずつ引き上げ、2017年度に18.3%としたあと、そこで頭打ちにすることが決まっている。これ以上の負担増は、サラリーマンも、保険料を半分負担する企業も、耐えきれない。一方、年金給付水準の引き下げは、年金受給者の生活を直撃するので、そう簡単に実施できない。そうなると、残された手段は保険料納付期間の延長と支給開始年齢の繰り延べしかないのだ。
 現に、政府は保険料納付を現在の「60歳まで」から「65歳まで」に延長する案を検討しており、田村厚生労働大臣もその可能性を否定していない。もちろん、これも大きな問題だ。なぜなら、いまだに大部分の企業の定年年齢は60歳で、65歳までの継続雇用が実現したとしても、60歳台前半の給料は、定年前と比べると激減するからだ。年金保険料を支払い続ける余裕などないのだ。

 ただ、もっと大きな問題は、たとえ選択制といえども75歳まで支給開始年齢を繰り延べることができるようにすると、大きな老後格差を生むということだ。
 実は、現在でも年金の繰り延べ支給を選択することは可能だ。65歳以降に年金支給の開始時期を延ばすと、1カ月につき0.7%支給額が増えることになっている。最大の延長は70歳だが、60カ月支給開始を遅らせて、70歳から年金をもらうようにすると、年金は42%も増える。これが75歳まで延長できるようになると、現在の生命表に基づいて計算すれば、年金を実に94%も増やせるようになるのだ。
 年金の支給額は、平均的な死亡率に基づいて決められている。だから、健康な人は、できるだけ支給開始年齢を遅らせたほうが、ずっと有利になる。ある程度の高齢層になれば、健康状態によって大体の死亡時期の見当はつくだろう。
 しかし、この高額の年金をもらえるのは、富裕層に限られる。なぜなら、庶民は支給開始年齢を75歳まで繰り延べる余裕がないからだ。しかも富裕層が健康的な食生活をして、ジムで体を鍛えているのに対して、庶民は不摂生を重ねる。富裕層は高額年金を得て、長生きすることになるのだ。

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