菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第143回 災害列島

掲載日時 2015年10月03日 10時00分 [政治] / 掲載号 2015年10月8日号

 9月10日から11日にかけ、台風18号の影響で関東地方と東北地方に豪雨が降り注いだ。利根川水系の鬼怒川と、鳴瀬川水系の渋井川の各堤防が決壊。多数の犠牲者を出してしまった。
 日本列島は「災害列島」なのである。日本国において、国土強靭化を推進しない政権や、国民を守るための予算を渋る財務省、さらには公共事業の継続的な拡大に異を唱える人は、いったい何を考えているのだろうか? 鬼怒川にせよ渋井川にせよ、予算を渋らず“必要な対策”を事前に講じていれば、洪水被害は防ぐことができた。国土交通省は、鬼怒川の堤防が脆弱であることを把握していたが“予算”の問題で堤防建設工事が遅れていたのである。
 大規模自然災害が頻発し、時に大震災までもが起きる日本国では、「自分だけは大丈夫」は通用しない。経済学者たちが言うように「保険をかけておけばいい」では話は済まないのだ。ことは、自分や家族、友人や同僚の「生命」の問題なのである。
 現在の日本国は、公共投資・公共事業の予算を削減し、土木・建設の供給能力が著しく弱体化している。すなわち、防災という安全保障が揺らいでいるわけで、前回取り上げた「亡国の農協改革」に加え、これもまた一つの亡国への道である。

 誤解している人が少なくないが、第2次安倍政権が発足以降も、日本の公共事業支出は別に増えていない。つまり、安倍政権は公共事業費を増やしていない。
 小渕政権期には14兆円を超えていた日本の公共事業支出は、福田政権期に8兆円を切った。リーマンショックが発生し、麻生政権時代には補正を含めて8兆円水準を回復したが、その後の民主党政権で再び削減。
 そして、2度目の安倍政権が始まって以降も、公共事業は確かに当初予算では微増しているが、補正を含めると増えていない。というよりも、補正を含めた公共事業支出は、今や民主党政権期よりも少なくなってしまっている。
 ちなみに、2011年と'12年の公共事業の補正予算が大きくなっているのは、もちろん東日本大震災の復興需要の影響である。
 今年、新たな補正予算が組まれない場合、'15年の公共事業支出は民主党政権期よりも実績値で小さくなってしまう。これほどまでに自然災害が多発する国において、安倍政権はいまだに緊縮路線を継続しているのだ。まさに、亡国への高速道路を疾走していることになる。

 ところで、鬼怒川の決壊を受け、メディアやネットで「民主党の事業仕分けの責任」との言説が広まり、それに民主党側が反論するという状況になっている。もっとも、筆者個人の意見としては、事業仕分けの影響うんぬんと関係なく、「コンクリートから人へ」という、おぞましいスローガンを採用した時点で、民主党などこの世から消えてしまえばいいと思っている。
 「コンクリートから人へ」とは本当におぞましいスローガンだ。何しろ、「将来世代のためのインフラ投資(コンクリート)など、どうでもいい。今、自分(人)にカネをよこせ」という意味を持つのである。

 日本が経済成長しないのは、国民が「将来のための投資」に否定的になってしまったためだ。投資の縮小は、民間セクター、公共セクター問わず、1998年以降は顕著に見られる特徴となる。
 デフレで利益を上げにくい環境下において、民間が投資を絞るのは理解できないでもない。経営者なら誰でも、もうからない環境でリスクを取りたくはない。だからこそ、デフレ期には政府が投資を増やさなければならないのだ。
 ところが、わが国では土木・建設業叩き、「国の借金が!」、そして「コンクリートから人へ」といった一連の公共投資叩きキャンペーンにより、公共投資は減り続けた。勘違いしないでほしいのだが、公共投資、公共事業、あるいは治水事業費を減らした主犯は、橋本政権と小泉政権である。さらに、民主党政権「も」減らした、というのが事実なのだ。
 民主党を引き合いに出したところで、公共投資の削減を続けた歴代の自民党政権(小渕政権、麻生政権のみが例外)の罪を相対化することはできない。自民党も、民主党も、国民を危険にさらす公共投資削減にまい進したという点で同罪なのだ。

 いずれにせよ、わが国では奇妙な「反公共投資キャンペーン」が展開され、デフレ脱却のために必要な需要創出が実現できなかった。結果、名目GDPが成長せず、税収が増えず、政府の負債が膨らみ、「このままでは国の借金で破綻する! 公共投資を削れ!」と、デフレ脱却から遠ざかる公共投資削減が実施され、国民が貧困化し、そして今回の鬼怒川が典型だが、「必要な投資」までもが削られ、国民の生命が危険にさらされてきたわけである。
 災害列島である日本国で、しかも需要が不足しているデフレ期に公共投資を削減する。国家的自殺、としか呼びようがない。
 最後には、「コンクリートから人へ」というおぞましいスローガンを、日本国民が熱狂的に支持するに至った。自分たちを貧困化させ、危険にさらす政策を支持する。「愚民」以外に表現のしようがない。まずは、災害列島において、国家的自殺を後押ししてきたのは、われわれ日本国民であることを自覚する必要がある。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。

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